静岡で“バカ旨魚料理”を提供する、「チーム・サスエ」の7人の料理人とは?
■ 焼津市「馳走西健一」西健一さん(44歳)・2022年開業/取引歴2年
西健一さんは、前田さんの魚を目的に静岡に移住したシェフ。東京やフランスでの修業を経て、以前は生まれ育った広島で店を営んでいました。広島でも前田さんから送られてくる魚で料理をしていましたが、2020年冬に静岡へ行った時に「シンプルズ」で食べた“もち旨鰹”が引き金となり、拠点を変えるまでに至ります。 「僕も前田さんから鰹を送っていただいていて、それもすごいクオリティでした。でも、シンプルズで当日午後に揚がった鰹を初めて食べた時、一日でこんなに違うのかと衝撃を受け、ずっと頭に残っていました。それから1年半は広島で営業していて、もちろん送ってもらう魚も素晴らしい。でも、その後に温石さんやFUJIさんでも食べる機会があり、上には上があると気づきます。こんなに違うのなら、やっぱり自分も使いたい。羨ましい気持ちがピークになって、もう静岡に来るしかなかったです」
かくして、「サスエ前田魚店」から自転車で1分の場所に「馳走西健一」をかまえた西さんは、世界で最も近い取引先となりました。そんなシェフのシグネチャーは“鮮魚のパイ包み”。しらす、金目鯛、太刀魚etc.日ごとの魚がパイに包まれ、ナイフで割れば、湯気とともに魚の香りが立ち上ります。ふわりと確かな水分量のある魚の身と、パイのコントラストも素晴らしい。駿河湾の玉手箱となるのです。
何がうれしいって、パイ包みやブールブランソースといったフランス料理のクラシックな手法と前田さんが仕立てた魚が出会うこと。西さんは、その日の魚の個性を知ってパイや火入れ、ソースを調整していきます。静岡にもフランスにもなかった、この店だけのひと皿です。新たな静岡の名物とも言える料理を、魚以外にこの地に縁のなかったシェフが生み出してくれたストーリーにも惹かれます。
■ 焼津市「なかむら」中村友紀さん(39歳)・2023年5月開業/取引歴1年
2023年の春、前田さんは「ついに最終兵器がきますよ」と楽しそうに中村友紀さんのことを話していました。「なかむら」は昨年5月に開業したばかりですが、中村さんと前田さんの出会いは20年以上前に遡ります。当時、地元の飲食店に勤めていた中村さんは、昼休憩に「15分でも魚に触らせてください」と「サスエ前田魚店」に学びに来ていた気概のある若者でした。 その姿勢に前田さんが目をとめ、「1年うちで預かって成生に放り込みました」と、中村さんは魚屋を経て天ぷらの世界に入ります。そんなふたりの縁に運命的に関わってくるのが、前田さんの恩人であるいまは亡き焼津の割烹「月の森」の親方・長谷川裕三さんです。長谷川さんは、20代の前田さんの道標となり、本気で魚に向き合うきっかけを与えた人。しかし、長谷川さんは前田さんが「月の森」に数年通った頃、闘病の末に逝去。たくさんの教えも叱咤激励もくれた長谷川さんに、「さあこれから恩返しするぞ」と思った矢先のことでした。