静岡で“バカ旨魚料理”を提供する、「チーム・サスエ」の7人の料理人とは?
それから井上さんは、魚料理を学ぶこのうえないチャンスと思い、前田さんに通ってもらう努力をしました。「多い時は週3回。その度に魚の扱い方やいい情報を教えてもらいます。自分は山の人間だったので魚に触れないで育ちましたし、海外ではホタテや牡蠣、オマール、ヒラメなど、使う種類は限られていました」と、環境が一転。膨大な魚種が生きる駿河湾を全力で吸収していきます。
いまでは、7人のなかで最も多くの魚種を扱う店となりました。1年を通してなんと200種近い魚を料理しています。ひと皿ごとに感じるのは、各国のエッセンスが混じる井上さんの自由な発想と好奇心。バリエーションが広いなかでも、鰹があがった日にだけ提供される“もち旨鰹のステーキ”は横綱級の味わいです。予約をしたら出漁を願いましょう。
■ 静岡市「日本料理 FUJI」藤岡雅貴さん(39歳)・2014年開業/取引歴5年
2年前、「これから予約がとりづらくなるのでは?」と言った時、「うちは絶対に大丈夫です!」と断言していた藤岡雅貴(まさき)さん。いま、完全に予約困難店となりました。藤岡さんの飛躍が凄まじいので、仕方ありません。2019年から前田さんの魚を扱い始めると、身質の違いからいままでのセオリーが覆され、最適解を求め成長し続けています。
藤岡さんは静岡市出身。関西の芸術大学に通っていましたが、料理人を目指すために大学を辞め、京都や東京で修業を積みます。その後、静岡へ戻り、2014年に「日本料理 FUJI」を開業。県外の魚も扱っていたものの、地元にとことん特化したスタイルを模索している頃、前田さんと出会いました。そこから、深淵なる地魚の沼にハマります。 思うに、「日本料理 FUJI」は県外の食道楽が静岡デビューするのにぴったりの場所。品川駅から静岡駅までは48分で、静岡駅から店までは徒歩5分。静岡で降りたことのない友人が「こんな近いの?」と驚き、さっきまで大都会にいたのに、一転、大海原を感じるフルコースにショックを受けます。
シグネチャーは、“駿河湾のダイヤ”と呼ばれる白甘鯛の松笠焼き。カウンターに白甘鯛が登場すると、油通しでキラキラした衣がジュエリーのようで見惚れます。藤岡さんはサッカー推薦で高校に入ったほど運動神経がいいのですが、魚を焼く所作に体幹の強さを感じるのは私だけでしょうか? 強い魚に対峙する安定感というか、秒単位の火入れを操る軸がブレないように見えるのです。 そうして、焼きあがった白甘鯛を噛めば、鱗がバリっと崩れるのを合図に熱い鯛のジュースがあふれ出る。都内から毎月通う常連がいることに、私も深く共感しています。