住宅ローンに影響する日銀の政策金利 堅調な賃上げ動向で追加利上げシナリオは?
住宅ローンの変動金利に影響を与える日銀の政策金利の動向に注目が集まっています。堅調な賃上げ動向を受けて、追加利上げはどのようなシナリオが考えられるのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主席エコノミストに寄稿してもらいました。
高い伸びが続く賃金、2%物価目標に対しては十分な水準
10月8日に発表された8月の毎月勤労統計(共通事業所版)によると、現金給与総額は前年比+3.1%と強い伸びを示しました。項目別にみると、特別給与(≒賞与)が同+7.5%と高い伸びを保ったことに加え、所定内給与(≒基本給)が同+2.9%、所定外給与(≒残業代)が同+3.4%と強さを維持しました。 また賃金の基調を把握する上で重視すべき一般労働者(≒正社員)の所定内給与は前年比+2.9%と高い伸びを維持しました。7月の同+3.0%から小幅に減速したものの、2022年対比では飛躍的な伸びを記録しており、企業の賃金設定行動が大きく変容した様子がうかがえます。一般労働者の所定内給与(≒正社員の基本給)は、春闘の結果から判断すると+3.5%程度まで加速しても不思議ではありませんが、春闘の結果が概ね反映されたとみられる8月の段階でこの数値だと、そこまでの加速は見込み難いと判断されます。ただ、いずれにせよ賃上げ率は3%程度かそれ以上の軌道にあり、これは2%の物価目標に対して十分な伸びといえます。
賃上げ定着でインフレ持続性高まる 12月か1月に追加利上げか?
こうした賃金上昇率は、日銀の金融政策にどういった影響を与えるでしょうか。結論を先取りすると筆者は、ドル円相場が140円台前半以下で推移すれば、日銀は様子見を長く続ける可能性が高いと判断しているものの、最近の賃金・物価動向を踏まえると12月ないしは1月に追加利上げに踏み切ると予想しています。日銀の政策態度は為替に依存するようになっているので、(円高によって)輸入物価が抑制されていれば、物価見通しを上振れ方向に脅かすリスクは低下し、利上げを急ぐ必要性は低下します。 それでも来春まで時間軸を伸ばして考えると、輸入物価の動向にさほど関係なく、利上げが実施される可能性が高いとみています。それは賃上げの定着によってインフレの持続性が高まっているからに尽きます。毎月勤労統計を見る限り、労働コスト増加に起因するインフレ圧力が強まっていることに疑いの余地はありません。 1990年代前半に比肩する名目賃金の伸びは、サービス物価の押し上げを通じてインフレの粘着性を高めています。ここで企業間におけるサービス取引の価格を集計した、企業向けサービス価格指数に目を向けると、8月も前年比+2.7%と高い伸びが続きました。サービス価格は基本的に労働コストに強い影響を受けるものですが、特に労働集約的な業種(=高人件費サービス)に限定すると同+2.8%と更に高い伸びが示されています。今後も構造的な人手不足が続くことを踏まえると、景気循環に左右されずに価格転嫁が進むのではないでしょうか。 サービス物価の認識をめぐっては、消費者物価統計(CPI)で計測されるサービス物価が、家賃の上昇を上手く反映できていないため、実勢を反映していない(消費者物価指数の数値が低めに出ている)との指摘も多いですが、少なくとも企業段階においては労働コスト由来のサービス価格上昇が観察されています。