移民流入がもたらすのはインフレ沈静化? インフレ圧力? FRB利下げはどうなる
米FRB(連邦準備制度理事会)の利下げ時期に注目が集まる中、移民の流入が米経済に与える影響をどう捉えたらいいのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主席エコノミストに寄稿してもらいました。 【グラフ】急激に進む円安は止められない? 今さら聞けない為替のキホン【Q&A】
明確に衰える企業の求人意欲、インフレ沈静化要因に
移民とインフレが大統領選の焦点となっていることから、政治経済を読む上で米国の労働市場を理解することは重要です。米国ではコロナを契機に人々が労働市場から退出したことで、人手不足感が強まりました。それが過度な賃金上昇をもたらし、現在のインフレにつながっているのですが、その解決に大きく貢献しているのは安価な労働力を提供している移民です。そこで今回の記事でJOLTS求人統計( Job Openings and Labor Turnover Survey)という指標を用いて、米国内の労働需給、移民がもたらす経済的な影響、FRBの金融政策等について解説します。 7月2日に発表された5月JOLTS求人統計は、大きく見れば賃金上昇率が落ち着くことで全体のインフレ率が低下していくとの見方を裏付けるものでした。筆者はインフレ率の低下を受けて、Fedが9月に利下げを開始するとの見通しを示してきましたが、今回の結果は筆者の見通しに自信を与えるものでした。以下、JOLTSを詳細に見ていきます。 まず、5月の求人件数は前月比+2.8%、814万件と市場予想に反して増加しました。もっとも、3月と4月に累積10.1%もの急激な減少を記録した後の反発であり、基調的な反転には見えません。2021年6月から2023年1月まで1000万件を超えていたことを踏まえると、企業の求人意欲が明確に衰えていることがわかります。現在、企業は人手不足を認識しながらも、採用基準を厳格化させるなどして労働者の選別を強化しているとみられます。これはインフレ沈静化要因です。 Fedが重視している、失業者数に対する求人件数の割合は1.22と、4月から横ばいでした。目下の水準は既にパンデミック発生直前の2020年1月と同程度まで低下しており、この尺度で見る限り労働市場は正常化を果たしています。ピーク時の2022年3月には、一人の失業者に対して2.03件の求人がありましたので環境が大きく変わったと言えます。労働参加率(≒人口に占める働く意思のある人の割合)が極端に低下し労働力不足が深刻だった2021~22年には、極度の人手不足から求職者が多くの選択肢を有するなど優位な状況にありましたが、そうした特殊な環境は終焉しています。現在は、失業者数が微増傾向にある中、求人件数が減少基調にあり、質の良い縮小均衡に向かっているように見えます。