公共交通のポテンシャルが地図でわかるオーストリア、ローカル線「赤字か否か」の議論から脱却できぬ日本が欠く発想
>>「公共交通「赤字か黒字か」の議論からどう脱却? 鉄道・バスのサービス水準を可視化、オーストリア・PTSQCという指標」から続く 【図表】駅・停留所のサービス水準と距離とをクロスさせてクラス分けした分類表。こうしたデータを地図上に落とし込む (柴山多佳児:ウィーン工科大学交通研究所 上席研究員) ■ 公共交通「赤字か黒字か」以外の重要な指標 これまでに、公共交通には「事業」としての性質以外に、第二の機能として「社会的機能」があること、さらに第三の機能として「自動車の諸問題の緩和機能」があること、そして鉄道・軌道の第四の機能として「都市・地域の骨格を形成する機能」があることを述べた。 また、「収支」や「赤字」は事業としての性質に着目した指標であること、また輸送密度も基本的には事業性についての指標であることを述べた。 公共交通の第二、第三の機能について検討し、政策へとつなげていくには、事業性に着目したものとは違った指標が必要となる。今回はその一例として、公共交通のサービス水準を「空間的に」分類して可視化する指標を紹介する。
■ 「公共交通の弱点をどの程度克服できているか」が指標になる これはスイスとオーストリアで開発されて用いられている手法で、ドイツ版の検討もミュンヘン工科大学の研究チームを中心に進められている。 ドイツ語では ÖV-Güteklasse、英語では Public Transport Service Quality Classificationの頭文字からPTSQCと呼ぶことが多いが、定訳が定まっているわけではない。 ちなみにÖV はÖffentlicher Verkehrの頭文字で公共交通を指し、Güteklasseとは品質水準のことである。 余談だが、ドイツ語圏で生活していてGüteklasseという単語を最も頻繁に見かけるのは、食用の鶏卵の品質基準を指す場合である。 公共交通には、駅や停留所という「点」でしか乗り降りできないという決定的な弱点があることは前回述べた。その「点」までは、基本的には歩いたり自転車に乗ったりすることになるが、その距離には限度がある。 さらに、公共交通は時刻表に従って走る。都心のように数分おきに来る場合はともかくも、そうでない場合は自動車のように乗りたいときにいつでも乗れるというわけにはいかない。これもまた、公共交通が抱える決定的な弱点である。 逆に言えば、ユーザー目線から、これらの「弱点をどの程度まで克服できているか」が、公共交通のサービス水準を示す重要な指標となる。 言い換えれば、この弱点の克服度合いこそが、公共交通がどの程度第二、第三の機能を果たしうるかをはかる指標となる。