公共交通のポテンシャルが地図でわかるオーストリア、ローカル線「赤字か否か」の議論から脱却できぬ日本が欠く発想
■ 駅・停留所からの距離でさらにクラス分け 駅や停留所という「点」のクラス分けができたら、今度はそれを「面」に広げる作業が必要である。 この基本になるのは、「駅や停留所まで近ければ近いほど利用者の受容性が増し、逆に離れれば離れるほど利用者の受容性が落ちる」という考え方である。これは1980年代の初頭のウィーン工科大学の研究などである程度定式化されているものだ。 自宅や目的地の目の前に駅や停留所があれば、大した移動もなしにぱっと乗ることができるが、10分歩く必要があるとそれに比べて抵抗感が増すというのは、直感的にもわかる。 日本でも、全く同じ条件の不動産であれば、駅に近いもののほうが賃料や売価は高くなるのが一般的だが、この逆から考えて、「自宅に近いところに公共交通が停まるほど、その存在価値は高くなる」という価値判断である。 オーストリア方式では、駅や停留所の中心からの道路沿いの距離、すなわち実際に歩く距離にかなり近似した距離で分類する。 300m、すなわち徒歩5分程度まであれば最も水準が高く、500m(徒歩8~9分)まで、750m(徒歩約12分)まで…と距離帯が伸びるごとにサービス水準は下がる。 徒歩20分程度に相当する1250mを超えたら「ランク外」である。ちなみにスイス方式では直線距離で計算するので、距離帯の区分の仕方も異なっている。 これと、先の停留所クラスの組み合わせから、PTSQCのクラスを決定する。それが次の表である。 表の縦方向が先ほどの停留所クラス、横方向が徒歩での距離である。先ほどの「駅・停留所クラス」と同様に、組み合わせは40通りとなるが、これをA-Gの7段階と「ランク外」の合計8段階に分類して、議論や政策作りに使いやすいようにしている。
■ 公共交通のサービス水準がネットの地図上で簡単に見られる このクラス分けの重要なポイントは、駅や停留所という「点」で、しかも決まった時間にしかサービスが来ないという性質を持つ公共交通のサービス水準を、地図上に、つまり「空間的に」表現することが可能になるという点である。 その一例が以下の図である。ウィーン近郊、図の上部を西から東に流れるドナウ川沿いのエリアだ。 また、地図上に表現できるということは、インターネット上での公開が容易である。 オーストリア版は連邦政府統計局の統計地図から、スイス版は連邦政府のWebマップで閲覧可能である。 これらのウェブサイトはGoogle Mapのように直感的に操作できるので、ぜひ上のリンクを開いてご自身でご覧いただきたい。 >>この記事の続きは「鉄道・バスの利便性をどう高める? 「採算重視」で苦境に立つ日本の公共交通が学ぶべきオーストリアのデータ活用術」へ
柴山 多佳児