大人の決着…井岡のタトゥー問題の厳重注意処分は妥当だったのか…なぜ井岡は沈黙を守ったのか
おそらく言いたいことは山ほどあるに違いない。現在、ファンデーションなどでタトゥーを隠せば試合出場は認められるように第95条ルールは拡大適用されているが、そのルールに準じて控室でタトゥーを隠す措置をした。JBC職員も、それを確認した。しかもファンデーションの種類も問題にはならなかった一昨年の大晦日に使用したものと同じものだったという。 だが、ここで反論コメントを出すと、またそれを発端にSNSが炎上するなどして無用なリング外での論争が起きる危険性がある。陣営は、それらを配慮して、あえて発言を避けたと見られる。経緯はどうであれ、試合中にタトゥーが丸出しになったというミスもある。 賢明な大人の対応を貫いたのだ。 一部では、日本のリングとの決別を示唆する行動でないか、との見方もあるが、井岡が大人の対応を貫いたのは「タトゥー問題ではなくリング上の戦いに注目して欲しい」との願いである。 一度、引退し電撃復帰した井岡は、その再起戦をロスで戦ったし、元々、海外でのビッグマッチを求めていた。「他団体との統一戦を目標にしたい」と年始にハッキリと断言している。 今回の田中戦の内容が評価され、リング誌のパウンド・フォー・パウンド(階級除外の最強ランキング)で10位にランクインするなど、その可能性も高まってきた。 IBF世界同級王者のヘルウィン・アンカハス(フィリピン)サイドからは対戦要求の声が上がっているし、3月13日に行われるWBC世界同級王者、ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)対WBA世界同級王者、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)の統一戦の勝者には、元WBC世界同級王者のシーサケット・ソールンピサイ(タイ)が挑戦することになっているが、その次の対戦候補としては当然、井岡の名前が挙がってくる。井岡が求めている統一戦ができるのならば、それが海外であろうが国内であろうが関係ない。そもそも海外に拠点を移すのであれば、新しい所属ジムを国内に求め、彼の事務所が新ジムを設立したりはしないし、今回、大人の対応を貫くこともなかっただろう。 また今回のタトゥー問題では、ルールそのものの在り方が議論にもなった。外国人選手には適用されていない矛盾や、若者の間ではタトゥーがファンション化しているため、時代の変化に応じてルールを改正すべきではないかのとの意見だ。 だが、安河内事務局長は、その問題に関しても、「今回、入れ墨(タトゥー)についての様々なご意見をいただいたが、現時点でJBCルールを変更することは考えていない」との見解を発表した。JBCには、ボクシング界と反社会的勢力とのつながりを絶つための懸命の努力を続けてきたという長い歴史がある。 JBCには「入れ墨とタトゥーの線引きを明文化できないしイメージとして反社会的勢力と結び付けられる恐れがある。ボクシングという競技上、それを暴力行為と重ねられることには問題がある」との考え方があり、ルールを固持する方針に変化はない。矛盾点を是正すべき余地はあるが、ルールの適用、解釈に限界が訪れるまでは、現状のルールを固持するという判断は妥当だろう。 井岡には、このタトゥー禁止のルール問題に対しても独自の信念と意見がある。だが、その問題提起も封印した。今回のタトゥー問題に関しては、論点がごっちゃになっているため、提言したとしても、素直に受け入れられないと判断したのだろう。 井岡のタトゥー問題は、罰する側も罰せられる側も“大人の対応”で決着を見た。両者の、その“心”は、「リング内のボクシングに注目していただきたい」との願いである。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)