丸山ゴンザレス ニューヨークで見つけたとにかくボロくて宿泊施設と思えない暗さの安宿。迷路のような常連専門フロアに漂う<白い煙>の正体は…
◆「牢屋か!」 とりあえずは、宿泊する室内の探索である。ドアを開けると部屋というか独房のような2~3畳ほどの空間にベッドがあるだけだった。天井には金網が張ってあった。 「牢屋か!」が部屋を見た印象である。まさに寝るだけのスペース。それ以外は必要ないだろと言われた感じがした。 香港で似たようなホテルを経験していたので、「これぞ狭くて地価の高い街ならではの機能美、ニューヨークスタイルだな」と思って納得できた(当時の俺はだいぶニューヨークに肩入れしていたのだろう)。 あとは施設内にどんなものがあるのか、そっちの方が気になって仕方ない。とりあえずバックパックを放り出してホテル内を探索することにした。 宿泊施設は何フロアかあるようだったが、施錠されている場所もあったので自分の滞在した場所を含めて3フロアしかまわれなかった。 1階上のフロアは宿泊フロアと違いはない。気味が悪いぐらいに同じである。階数と部屋番号でも確認しないと間違えそうだし、視覚的に記憶していたら、脳内のメモリごとバグって崩壊しそうなぐらいである。
◆怪しさの根源的な理由 とりあえずここまではホテルのオプションみたいなもの。一番のお楽しみは、1階下のフロアである。 鉄扉にはのぞき窓があり期待が高まる。奥を見ると上層の2フロアと同じく仕切りの壁が続いている。どこまでも続くように感じる奥行きが怪しい気配の充満度をいっそう濃くしてくれていた。 扉を開けた。すぐに怪しさの根源的な理由がわかった。煙いのである。タバコの匂いもするし、それ以外の煙も感じられ、気のせいかフロア全体の視界が悪い気がした。 仕切りの壁の色は、俺の宿泊フロアよりも明らかにくすんでいる。というか、床から何から全体的に小汚い。掃除というよりも手入れが不十分なところに経年劣化も加わったという感じだった。 「ここには誰も泊まっていない閉鎖されたフロアなのか?」と思ってうろつくと、いくつかの部屋の前を通った時に人の気配がした。宿泊者はいるようだ。 実はこのホテルに入ってからスタッフ以外の人間を見ていなかった。それなのに人の気配はするという不思議な感覚があったのだ。その疑問がようやく解消された。それによく見れば、薄暗いフロアのおかげで漏れてくる灯りが確認できる。 この時点(昼ぐらい)でチェックイン済みということは連泊しているはずである。おそらくであるが、ここはある種の常連専門のフロアなのだろう。 それにしては手入れがなされていないのは不思議だった。そして、思考の片隅にはもう一つの可能性、むしろ正解であろうというある考えが浮かんでいたが、断定できる材料を求めて、さらにフロアをうろつくことにした。
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