〈アメリカでブームの日本酒に立ちはだかる3つの壁〉ユネスコの無形文化遺産登録も、市場拡大に必要なこと
ユネスコ(国連教育科学文化機関)の政府間委員会は、日本酒や焼酎、泡盛、みりんといった日本の「伝統的酒造り」を無形文化遺産に登録することを決めた。日本の酒造業界は喜びに沸いており、今回の登録を契機に世界へと日本の酒を広める契機としたい、そんな機運が生まれている。 【画像】〈アメリカでブームの日本酒に立ちはだかる3つの壁〉ユネスコの無形文化遺産登録も、市場拡大に必要なこと アメリカでも近年、日本酒はかなり広範な市場に浸透してきており、酒好きのアメリカ人の中では良く知られるようになってきた。日本やアジアとの結びつきの強い西海岸や東北部だけでなく、全国の酒屋に「SAKE(酒)」のコーナーができており、諸外国の酒というカテゴリの中では、テキーラ、コニャック(蒸留酒であり、醸造酒の日本酒とは直接比較はできないが)と同等あるいはそれ以上の存在感を見せてきている。 その一方で、今回の登録を契機に市場拡大のスピードアップを図るには、いくつかの課題が見えてきているのも事実だ。今回は、日本酒を中心にアメリカにおける市場拡大の現状と課題について考えてみたい。
日本食を新たに浸透させる時
まず最大の問題は、日本酒を楽しむ機会をどうやって拡げるかだ。日本酒は確かにアメリカ人の生活に浸透してきているが、現時点ではあくまで日本食を楽しむ際の食中酒という位置づけが強い。もっと言えば、日本食がより親しまれるようになっていく中で、日本酒も浸透してきた。そこに、日本酒の市場拡大におけるチャンスもあるし、同時に限界もあるということだ。 チャンスというのは、現在のアメリカでは日本食の浸透が新たな段階に来ているという点だ。長年、寿司と天ぷらに限られてきたアメリカにおける日本食が、ここ数十年で焼き鳥が大きな存在感を発揮、更には居酒屋風のバラエティのあるメニューや、爆発的なラーメンのヒット、更には様々なフュージョン系の創作料理なども見られるようになってきた。こうした日本食のバラエティ拡大に伴って、日本酒の楽しみ方も広がることが期待される。 けれども、アメリカは日本ではないわけで、アメリカ人の多数が日本食ばかりを食べるということにはならない。そこで、日本酒の浸透をさらに加速するには、日本食以外のアメリカ料理や中華やアジア系、欧州系の食事にも、日本酒を合わせていくような提案をする必要がある。これは業界として、つまり酒販業界としても、外食産業としても未知の分野になる。 インフルエンサーやオピニオンリーダー的な人々を巻き込み、場合によっては食文化の専門TVチャンネル(『フード・ネットワーク』など)や、食品メーカーとのコラボなど、相当にダイナミックな動きも必要であろう。一流のファイン・ダイニングや、高級ホテルチェーン、各国航空会社のビジネスやファーストの機内食などとのコラボも可能性があるが、いずれにしても両国文化に精通しつつの粘り強い営業活動が必要だ。