〈アメリカでブームの日本酒に立ちはだかる3つの壁〉ユネスコの無形文化遺産登録も、市場拡大に必要なこと
問屋の方もワインのノウハウがあるので、品質管理はそれほど心配ないようだ。だが、ラベルまで問屋に任せるケースもあるようで、そうなるとブランドの価値は十分に発揮されない。
「家飲み用」にはまだ高い
さらに問題なのは価格である。タンクで出荷してアメリカで瓶詰めする場合でも、日本で瓶詰めした場合でも、輸送コストと中間マージンなどが積み上がることで、価格はかなり跳ね上がっている。現地で大量生産されている普通酒の場合は、一升で10ドル(約1570円)に抑えられている場合もあるが、これはあくまで例外だ。 地酒に関して言えば、純米吟醸の場合は銘柄にもよるが、四合瓶(720ミリリットル)で25ドルから30ドル(約4600円)、純米大吟醸の場合は四合瓶で50ドルから60ドル(9200円)あるいはそれ以上、という異常な値段になっている。 愛好家ならそれでも買うとは言え、これではいくら物価の高いアメリカにあっても、手頃な食中酒にはならない。例えばワインの場合であれば、注意して選べば750ミリリットル瓶で10ドル未満でも、カリフォルニア、チリ、アルゼンチンなどのワイナリーのもので味の良いものは出回っている。とにかくワインで言えば、750ミリ瓶で、9ドルから12ドルというのがアメリカ全土で考えれば、「家飲み用」のボリュームゾーンである。 この価格帯に重なるのは、日本酒の場合は大量生産の普通酒だけであり、少しでも個性のある「地酒」になり、純米だったり精米比率が低かったりということになると、四合瓶で25ドルから60ドルになる。これでは、大量普及は難しい。実はアメリカでの流通では一升瓶は少なく、四合瓶に加えてもっと小さな300ミリリットル瓶というのも意外に出回っている。そして、まあまあの品質のものが10ドル前後となっている。 そもそも四合瓶だと値段が高すぎるので、300ミリのものを10ドル程度でいくつか買って飲み比べてくださいというような売り方になっていると言っても良いかもしれない。けれども、アメリカ人は平均的にアルコールに強いので、酒好きのカップルが食中に楽しむ場合には、300では物足りない。とにかく、この価格問題というのは、良い酒を普及させる上ではネックになっていると言える。