〈アメリカでブームの日本酒に立ちはだかる3つの壁〉ユネスコの無形文化遺産登録も、市場拡大に必要なこと
生酒をどう届けるか
次の問題は、日本酒の流通である。アメリカにおいては、日本酒はワインと違って火入れ(約摂氏60度の加熱処理)をしているので、開栓後も常温保管ができるなど使い勝手が良いという認識がある。間違ってはいないが、これはあくまで火入れを2回して発酵を止め、場合によっては醸造アルコールを加えたりして品質を安定させた酒の場合である。 日本酒の世界は幅広く、火入れをしない生酒や、これに近い酒もたくさんある。淡麗辛口ブームが過ぎた日本では、こうしたフレッシュでフルーティなモダンな酒がブームになっており、若手の経営者や杜氏による新しい試みも増えてきている。 そんな中で、日本国内では冷蔵便を使った酒の流通システムが成立している。アメリカ人もこうしたフレッシュな生酒の味を覚えられれば、必ず愛好すると思うが、残念ながら日本からアメリカに輸出する場合には、品質を保持した流通システムが必要だ。 液体がガラス瓶に充填されている酒は、まずもって航空便ではコストが重すぎる。そこで船便となれば、どうしても輸送に時間が掛かるし場合によっては酷暑の環境を通過することもあるだろう。これでは、せっかくフレッシュな新酒をすぐに発送しても、十分な品質の期間内にアメリカに届けるのは難しい。 北関東の中堅で、季節ごとに新酒のにごり酒を出している蔵元があるが、特に冬の新酒は絵柄が可愛いということで、アメリカでも多くの引き合いがあるようだ。輸入業者は、品質を考えて「要冷蔵」というタグを付けて出荷しているが、残念ながら、小売店では認識が薄く常温で陳列されているなどというのはザラである。 また、一部の中堅から大手の蔵元の場合、酒は日本からタンクで出荷して、アメリカでは提携したワイン問屋が瓶詰めして販売するというのも、幅広く行われている。蔵元としてはビジネスのリスクを下げることになるので、こうした選択がされるのは分かる。