能登半島地震の体験と珠洲原発の恐怖 落合誓子[ノンフィクションライター/珠洲市在住]
●はじめに 能登半島地震についてはいまだに大きな爪痕(つめあと)を地元に残したままだ。新聞・テレビなどは現地入りした記者の取材報告を伝えてきたが、今回掲載する報告は、地元在住者ならではの生々しいレポートだ。珠洲原発の恐怖など大手メディアがほとんど伝えていない現実も伝えている。筆者の落合さんは地元のお寺に生まれ、市議会議員を務めるなどしたノンフィクションライターだ。(編集部)
隆起した岩が語る珠洲原発の恐怖
まだ寒い春の一日に私は寺家に出かけた。昔の反原発の同志・池上富治男さんを訪ねたのだ。 「遠くに見えるあの砂浜の奥に炉心の予定地があったのを覚えておるやろう」 もちろん私は覚えている。下(海)から見たことはなかったが、上(崖の上)からは何度も写真を撮ったことがあった。その辺りに目を凝らしてみる。その辺りの岩肌の色がなぜか半分ほど白い。その理由を何気なく聞いてみた。 「今度の地震で海岸が隆起したのをテレビで見んかったか」 「エエっ…まさかっ…テレビで言っていたあの寺家の隆起って、この炉心予定地だったってか!!」 隆起した岩が、怖いほど「白い」のが不気味だったが、まさか炉心予定地だったとは……。 「ここの隆起は1メートル50センチ。高屋はなんと2メートルの隆起や。高屋もあの原発の団結小屋の真下の海岸が隆起しとる。原発があったらどんなことになっとったか、あんたもわかるやろう」 「ええっ!! 高屋も隆起……」 震源域だとは知っていたがまさか隆起していたとは。 原発の予定地が2カ所とも今回の地震の震源域だと知って「もし、あの原発が出来ていたら私たちは今頃生きていなかったかもしれない」。そんな思いで、私はまず寺家の池上さんを尋ねたのだ。 彼は今はリタイアしているが、以前は大手の電気関係の製造会社の下請けをしていた工場の工場長で機械にはめっぽう強く、私たちの理論的支柱の一人だった。 彼の話で知ったが、こともあろうに「炉心の位置」そのものが2カ所とも隆起していたとは……。 原発の炉心の隆起などあり得ない。まず炉そのものがバラバラに壊れるに違いない。張り巡らされている冷却水のパイプが1カ所でもちぎれて、速やかにバックアップができなかったら、たちまち福島のようになる。その上、津波まで襲っている。パイプが激しく揺さぶられることは必定。そんな中で、隆起による炉の倒壊など論外だ。原発に地盤の安定は必須条件であることは論をまたない。 「自然をなめとるな、ということや」 彼の言葉が炉心予定地の足元の砂浜に染み込んでいくようだった。