現実味をおびる2028年有人火星探査と、マスクがトランプを支持する理由
巨大なブースターが「箸」でキャッチされるSFのようなシーンは、イーロン・マスクが主張する人類の火星入植を、「あり得る計画」として再認識させたに違いない。ただし、その開発スケジュールは大幅に遅延している。その一因である過剰規制を廃絶するため、マスクはトランプを支持。マスクを監視する規制当局を、逆に監視するポジションを得ることで、ロケットだけでなく、あらゆる事業を推し進めようとしている。 【画像】フライトテスト5の打ち上げ ■ロケット・キャッチャー「メカジラ」 スペースXは10月13日、超巨大打ち上げシステム「スターシップ」の5回目のフライトテストに臨んだ。その総全長は121m、質量は5000トンに達する。 第1段の全33基のエンジンが点火されると、機体は轟音とともに上昇。2分40秒後、高度69kmで第1段ブースターが切り離されると即座に反転し、発射地点に向けて降下、その速度はマッハ8.4(時速4400km)に達した。ランディングバーンによって降下速度がゼロになると「メカジラ」と呼ばれるタワーにホバリングしながら近づき、2本の巨大なアームに滑り込んで見事キャッチされた。 一方、宇宙船スターシップは、地上からの最大高度(遠地点)212kmに到達。準軌道(宇宙には達するが周回軌道には乗れない軌道)を航行しながら、1時間5分かけて地球を半周し、オーストラリア西方のインド洋海上に柔着水した。その様子は洋上ブイのカメラが捉えていることから、予定ポイントに着水したことがわかる。 ■コスト1000兆ドルを1兆ドルに圧縮 この飛行テストの成功を受けてマスクは、2025年には第1段ブースターだけでなく、第2段の宇宙船スターシップも「箸」でキャッチすることを示唆した。さらに2026年には無人のスターシップを火星に向けて打ち上げ、2028年にはヒトを火星に送り、20年後には火星地表に自立型都市を建設すると公言している。
1000倍の効率化は実現した打ち上げシステムは可能か?
人類を火星に入植させるには打ち上げコストを大幅に圧縮する必要があるが、スターシップはそのために開発されたシステムであり、マスクのビジョンを要約すれば以下のようになる。 火星地表までの打ち上げコストは現在、1トン当たり約10億ドル(約1500億円。1ドル150円換算、以下同)を要しているが、火星に持続的な都市を建設するには少なくとも100万トンの設備が必要であり、そのコストは1000兆ドル(15京円)に達する。しかし、米国のGDPが29兆ドル(約4350兆円)であることを考えると、それは不可能な数字だ。 そこで私たちは打ち上げシステムを1000倍効率化させようとしている。実現すればコストは1兆ドル(約150兆円)まで圧縮でき、40年かけて分散すれば年間250億ドル(約3兆7500億円)未満に低減できる。こうしたプランであれば既存の経済を圧迫することなく、人類の活動の場を他惑星に広げ、生命の長期的な存続が可能になるだろう。 ■1000倍の効率化は実現可能か? スターシップでは第1段と第2段をともに再利用することでコストを低減しようとしている。その効果が絶大であることは、同社のファルコン9によってすでに証明されている。 機体を再度地上に着陸させるには、通常であればランディングギアが必要になるが、ギアの重量が増すとペイロード(宇宙に届ける荷物)を減らすことになる。そのためスターシップからはランディングギアが取り除かれ、地上施設であるメカジラがその機能を補う。 また、ロケットはペイロードを地球周回軌道に乗せるために、ほとんどの燃料を消費してしまう。従来のロケットが搭載できるペイロードは、燃料を含むロケットの全質量に対して4%程度でしかない。 ただし、スターシップの場合は、タンカーと呼ばれる無人姉妹船を後から打ち上げ、軌道上で補給することを前提に設計されている。このオペレーションによってスターシップは、従来のロケットと比べて格段に重いペイロードを輸送できるようになる。