新型コロナはいかにして中国・武漢から世界に広がったのか
シリーズ・新型コロナ世界流行の謎にせまる【1】
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行は、全世界で約700万人が死亡(2024年10月時点、世界保健機関<WHO>の集計による)するという大きな人的被害を生じただけでなく、社会生活にも大きな影響を及ぼしました。こうした大規模な流行が起きた原因はどこにあるのでしょうか。それを解明するには医学的な観点だけでなく、社会的や文化的な観点からの検討も必要になります。本シリーズでは、新型コロナの流行発生から世界に拡大する最初の1年間をふり返りながら、近年まれにみる大流行が生じた原因を解き明かします。【東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授・濱田篤郎/メディカルノートNEWS & JOURNAL】
◇「流行の始まりは武漢」で衆目一致
新型コロナウイルスがヒトの間で流行し始めた時期は2019年12月で、その場所が中国の武漢だったことは衆目の一致するところです。シリーズ第1回は、それまで動物の間で流行していたウイルスが、どのような経緯でヒトに感染するようになったのか、そして武漢からどのように世界へ飛び火したのかを探ります。
◇発生原因に関する2つの説
新型コロナウイルスの本来の宿主はコウモリと考えられており、この動物由来の未知のウイルスがヒトに感染し、流行拡大したとされます。今回の武漢で始まった流行では、コウモリからヒトへ直接感染したのではなく、中間宿主となる小動物(センザンコウ、ネズミ、タヌキなど)を介して感染が起きたと推測されています。 では、武漢でどのような経路からヒトの感染が起きたのでしょうか。これには、武漢海鮮市場説と武漢ウイルス研究所説の2つがあり、本連載の2021年12月(「新型コロナの流行はどこから発生したのか」<https://medicalnote.jp/nj_articles/211223-001-DQ>)でも2つの説を解説しました。前者は市場で販売していた小動物がコロナウイルスを保有しており、その動物から市場の従業員や訪問客が感染したというものです。後者は同研究所でウイルスを用いた研究をしていたところ、そこで働いていた職員が感染するなどして、外部に拡大したとする説です。 この2つの説をめぐっては、WHOが2021年1月に調査団を武漢に派遣し、市場説が有力であるとの結論を暫定的に出しています。