離れて気づく歌舞伎町の“異常さ”――売り掛け廃止ですすきのに移転したホストの再出発 #ydocs
まさか…出会って2カ月で300万円
ひっきりなしに行われるシャンパンコール。その度に店内では女性客とその担当ホストとのやり取りがマイクを通して店中に響き渡ります。まるで女性客とホストたちによる“愛の告白”。 この日一番の盛り上がりは総額“300万円”のシャンパンタワーが入った時でした。 「今日のために…」と担当ホストに書いてきた手紙を読み上げる女性。「出会ってまだ2カ月で…初デートはゲーセン…」エピソードを話し終えると2人で“祝杯”をあげました。 テーブルに戻った女性客に話を聞くと「今日を特別な日にしたくて…」という一心で大金をはたいたといいます。 なぜ出会って間もない人のためにそこまで出来るのでしょうか。300万円、簡単に使える金額ではありませんが、事前に約230万円を準備し、シャンパンタワー代のほとんどが会計済み。当日は残りの70万円ほどを支払いました。 一方で売り掛け=“ツケ払い”に頼って、ホストとの時間を楽しむ女性がいるのも事実…。 「売り掛けができなくなり、高額なシャンパンなどをためらうようになった」 「飲んでいて気分が良くなっても追加でシャンパンを入れることが出来ない」 我々がホストクラブに通う女性の取材をしていても、“売り掛けを一度もしたことがない”という女性はほんの一部でした。 このホストクラブの姫野愛逶取締役社長は、今回の“売掛金制度廃止”によって今後の集客にも影響が出ることを懸念しています。 「売り掛けメインでのお客様との付き合いとか、お客様も売り掛けがあるからこそ仕事などを頑張れるっていう子たちとかも少なからず見てきたので、そういうお客様はもう飲みに来ることは減っていくんじゃないのかなと思います」 しかしこのとき私たちは、この日がこの店の歌舞伎町での“最後の営業”の取材になるとは思いもしませんでした。
「歌舞伎町から撤退します…」突然の告白
2024年2月、ホストクラブの代表から急な連絡が入り、歌舞伎町に向かった取材班。待ち合わせ場所に到着して間もなく、姫野取締役社長から明かされたのは“想定外の言葉”でした。 「歌舞伎町がどうなっていくかも分からない中で、自分自身でいろいろ考えた結果、今回歌舞伎町から撤退しようと…」 語ったのは“歌舞伎町からの撤退“。1月の取材時には予想していませんでした。 「このまま歌舞伎町で僕自身がずっとホストをやっていきたいと思うのか思わないのかっていうのを胸に手を当てて考えた時に、今回取り締まりも含め、売り掛けの件も含め、かなり悪質なホストたちも増えていて。全員が全員なわけじゃないですよ。本当にちゃんとまじめにやっている所も知っていますし。 ただやっぱりどうしてもそこを一緒にされて、自分たちもどうしてもひとくくりの中になってしまい、一部の良いイメージを持たれないホストの印象を変えきれなかった部分がありました」 歌舞伎町撤退の理由は”逆風“を考えてのことでした。 さらなる追い打ちとしてあったのが、新規ホストの“人材不足”も問題だと話します。 「今までとは段違いで入ってくる人数は減りました」 一連の“ホスト問題”により「今歌舞伎町でホストやってもお金を稼げない」と考える若者が増え、新規ホストの体験入店が来ないというのです。ホスト業界にも広がる人材不足…。 山積みの問題の中で今後はいったいどうするのか。 新天地として選んだのは“売り掛け廃止”がない北海道・札幌市の繁華街“すすきの”でした。