ヨーロッパの見事な古地図とその世界観、天動説の下「異端と言えるほど過激」な地図も
地図は「どう妥協するか」
サンダーランド・コーエン氏は、歴史的な地図の正確さを理解するには、地図が描かれた背景を考慮する必要があると言う。「なかには、地図そのものが間違っているわけではなく、ただ広大な地理的領域や概念を表現しようと試みているだけというケースもあります」 学者や地図製作者は自分たちが持っている情報に基づき、強調すべきだと考えた点を強調していた。例えば、製作者がある特定の交易路について詳しく知っていれば、地図上でもそれが目立つように描いた。 「たいていの場合、新しい地理的特徴は、まず1人の地図製作者の地図で紹介されました。するとほかの地図製作者たちはそれを見て、情報源と描写が信頼するに足るものであるかを見極め、自分の地図にも掲載するかどうかを決めるのです」と、英国の王立地理学会で地図コレクションを管理するキャサリン・パーカー氏は話す。 古地図には際立った特徴もあった。例えば風向きを表す頬を膨らませた人間の顔の絵だ。こうしたイラストは海を航海する上で助けになると同時に装飾的な効果もあった。時代とともに地図には寓話の一場面が、季節を表すイラストなどとして描かれるようになっていく。 球状の世界を平面に描くという本質的な問題があるために、地図が完全に正確であることは決してありえないと、バーバー氏は言う。「平らな紙に描いたものが真実を語ることはありません。だから妥協するしかないのですが、どう妥協するかは、その人が何を重視するかによって変わってくるのです」
文=Lucy Handley/訳=三好由美子