2025年はトランプ構文がわかれば意外に怖くない
それでは彼らは、「またトラ」リスクをどう考えているのだろう? 「そりゃあ、不安がないと言えば嘘になるよ。関税を引き上げれば物価は上がるし、不法移民の強制送還をやれば、国内が労働者不足になって賃金コストが上がるしね。でも、トランプさんはビジネスマンだ。経済を悪化させるようなことをすれば、自分の首が締まることは十分に理解していると思うよ」 第1期トランプ政権のときにも、よく言われたものだ。「トランプさんの言うことは真面目に聞かなきゃいけないが、字句通りに受け止めちゃいけない」(Taking Trump Seriously, Not Literally.)。彼の発言は誇張が多いし、明らかな「ネタ」も含まれているので、片言隻句(へんげんせきく)にとらわれると混乱してしまう。でも、彼はいつもホンネで語っているから、そこは真面目に受け止めなければいけない。
つまり自分の支持者を喜ばせるためには、関税は上げたいし、不法移民は強制送還してやまず。でも、それでアメリカ経済をインフレにしてしまったら、元も子もないのである。ご本人も資産家であるから、株価や不動産価格も気にしているはず。だからウォール街を敵には回せない。その微妙な匙加減は、今回の財務長官人事にもよく表れている。 今回、他の閣僚人事がバタバタと決まる中にあって、財務長官人事の発表は11月22日とやや遅れた。経済スタッフ内部で、議論が割れていたからであろう。その結果、「関税タカ派」のハワード・ラトニックが商務長官に回り、本命たる財務長官を射止めたのは穏健派のスコット・ベッセントであった。この人事が発表されたその日に、アメリカの長期金利は低下した。「ベッセントが長官なら財政赤字が減るだろう」と市場が見なしたからである。
ところがすぐ後の11月26日になって、トランプさんはご自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、「中国とカナダ、メキシコに追加関税だ!」とぶち上げている。おいおいおい、アンタはいったいどっちにしたいんだ。そこはもちろん両にらみであって、支持者を喜ばせると同時に、経済を壊したくもないのである。 この「トランプ構文」がわかってくると、「またトラ」リスクがあんまり怖くなくなる。それこそ「アニマル・スピリッツ」に代えてしまうことができる。外側から見ると怖いけれども、内側の人たちはそんなに恐れていない。何しろ彼らは、第1期トランプ政権をたっぷりと堪能しているのだから。