年末料理がランクアップする日本酒「基峰鶴」の“ひやおろし”、熟したバナナを思わせる“円熟味×ガス感”が魅力
文=加藤恭子 撮影=加藤熊三 写真提供=基山商店 ■ “熟したうまみ×ガス感”で、料理をランクアップ 【写真】専務兼杜氏の小森賢一郎さん 熟したバナナを思わせる、円熟した甘い香り。口に含めば、細やかな泡がぴちぴちと弾け、やわらかなうまみ、爽やかな酸味が広がり、心地よいほどシャープな余韻を残す。これは間違いない。どんな料理も一段ランクアップさせてくれる度量の大きさと、繊細さを兼ね備えた名酒。 「基峰鶴(きほうつる)」といえば、近年、心躍るようなフレッシュさとやわらかな味わいで日本酒ファンの注目を集める、佐賀県の基山商店の代表銘柄。なかでも純米酒は、そのフラッグシップともいうべき存在で、12月にはしぼりたての新酒が発売される。 ■ “ひやおろし”の円熟味とフレッシュさが共存 ところで “ひやおろし”とは、春先にしぼられた新酒を火入れ(加熱殺菌)し、秋に再度火入れすることなく“冷や”のまま出荷される日本酒。夏の間に熟成させることで、新酒の若々しさがまろやかなうまみへと変化する。秋から冬にかけて、少しずつ瓶の中でもさらに熟成が進み、果実が甘く熟していくようにうまみが深まるのも魅力だ。 杜氏の小森賢一郎さんはこう話す。 「しぼりたてのフレッシュ感をできる限り損なわないよう、もろみをしぼったら2日以内に瓶詰めし、低温で管理しています。さらにこのひやおろしもそうですが、限定流通の酒は、瓶詰めしてから昔ながらの湯せんで火入れしています。手間がかかりますが、発酵によって発生した炭酸ガスを瓶内にしっかり閉じ込められます」
■ 「うちらしい酒とは何か」 近年、コロナ禍で酒の出荷がほぼストップしてしまったことから、酒造りに悩み、「うちらしい酒とは何か」を根底から考えた、と小森さん。そこであらためて既存の設備でできること、酒質を高めるためにできることを全部やろうと考えた、と振り返る。 「洗米は少しずつ分けて水を吸わせる限定吸水の方法を見直すなどなど、洗米から瓶詰め、火入れまで、それまで以上に手を抜かずにやろうと取り組みました」 従来、純米酒の原料米は佐賀県産の食用米を使用していたが、この「基峰鶴 純米 ひやおろし」(日本名門酒会の限定品)は、昨年から佐賀県生まれの酒造好適米「さがの華」を100%使用。食用米で造った純米酒はフレッシュさが際立つ一方、さがの華を使った純米酒は、はるかに深いうまみを引き出しやすく、ひやおろしの熟成感をよりいっそう表現できるという。ちなみに基山商店では1980年代後半から、父・小森純一さんが地元の契約農家とともに山田錦を作るなど、地元産の原料米にこだわってきた。 「酒造りは米とともにあるもの。地元農業としっかり向き合って、もっともっと基山町の農家の方々と一緒に米づくりに取り組んでいくような流れをつくりたいと考えています。基山町は自然に恵まれ、福岡に近く立地もいいんです。生まれ育ったこの土地の田んぼを維持していくための、ひとつの力になれればという思いがあります」 そう話す小森さん。基山の自然風土とともに、酒を醸す。
加藤 恭子