「資本主義に惑わされて生きてきた過去に見切りをつけて…」歌手・南こうせつが実践した「70歳からできる身仕舞い」
70歳から平屋に住む
そこで自宅の建て替えを決意する。テニスコートも処分して土に返す。その前に立ちはだかるのが、膨大な物の処分だ。こうせつさんが続ける。 「ロックスターのような広い家を、平屋の2LDKに建て替えたのですから、物の処分が大変でした。たとえば、Tシャツにしても、『これはあのときのコンサートで着たやつだ。いやぁ、がんばったよなぁ』と、最初は1枚捨てるのにも30分くらい思い悩みました。でも、それが何百枚もあるわけです。 そこで、Tシャツ1枚捨てるのに思い悩む自分は、何に執着しているのかと分析をしていきました。わかったのが、ミリオンセラーのころの過去に対するこだわりでした。サラリーマンでいうと、定年退職をしたあとも、常務や部長といった肩書にこだわる感覚と言えばいいのでしょうか。 そういう過去を自分の意思で捨てたとき、すごく身が軽くなって、小学校や中学校のころの、何の肩書もない自由な自分に出会えたのです」 こうせつさんは要らない洋服をすべて産廃業者に処分してもらい、大量の写真もアルバム1冊だけに整理したという。 「以前、要らない洋服をボランティア団体に出して嫌な思いをしたことがありました。海外の貧しい人たちに届けるということだったのですが、その団体が僕の物だからということで、密かに一般の人に売っていたんです。それがトラウマになっていて、産廃業者に直接依頼しました。 最後まで手放せなかったものはギターです。たとえばポール・サイモンやエリック・クラプトン、ジョン・デンバーと同じモデルのギターは、憧れて買ったものなので、なかなか処分できません。まだ30本くらいありますが、ギターだけはあと10年くらいは持っていたい。でも、いずれこれらも譲っていかなくてはいけないんでしょうね」
価値の高いものから処分する
物を片付けて自分の過去に区切りをつけることは、新しい一歩を踏み出すことでもあると、こうせつさんは話す。 「過去のこだわりを捨てると、子供のころの夢に再び出会える。70歳を過ぎて、たとえその夢が実現しなくとも、夢に向かって歩いていく。本当は魚釣りが好きだったんだな、ギターを弾いて歌うことが好きだったんだな、そういう純粋な夢に向き合えます。すると、また新しい人との出会いが生まれる」 リンボウ先生こと、作家の林望さん(75歳)も人生の大掃除に手をつけている。仕事柄、大量にある蔵書の処分だ。 「暮らしていく上で、少しくらい身の回りがごちゃごちゃするのは仕方ない。問題は、死んでからのこと。私物の処分をどうするのか。私も父(未来学者の林雄二郎氏)が亡くなったときには蔵書の処分が大変でした。 私も蔵書が2万冊ありますが、あえて価値のあるものから処分しています。世の中的に価値のあるものを、私の死後に家族が二束三文で業者に引き取らせては大きな損失です。価値のわからない業者に渡ったら、最悪の場合、廃棄されてしまうかもしれません。価値あるものを集めたのなら、死ぬ前に世の中にお返しするようにしておくのが、収集した人の責任であり、人の道です」