二人三脚だからこそできたこと! 姉と妹の思いを詰め込んだブランドがついにデビュー
漫画家兼ファッションデザイナーの小柳かおりさんが、子育て中の妹と共に新ブランド立ち上げに奮闘する様子を追いかけた連載も今回で最終回。ワンピースの仕上げからショップバッグやネームタグ作成などといった準備の様子から、展示会当日の様子までをお届けする。 【もっと写真を見る】
15年という子育て期間のブランクを経て再度、社会とつながりたいという妹の切実なる思いに応えるべく、共に新ブランドを立ち上げようと決意したマンガ家の小柳かおりさん。40歳の時にファッションデザイナーを目指して服飾専門学校へ入学、そして自身のブランド「Antique Carrie」をデビューさせたという経歴の持ち主だ。これまで2回にわたって、デザインや試作などワンピース制作の様子を追いかけてきたが、いよいよ姉妹2人でつくり上げた「Carrie‘s Mom」のワンピースをお披露目する時がやって来た。そのラストスパートの様子や展示会当日のこと、そして今後のブランド展開に向けた思いについてなど、小柳さんを聞いてみた。 「ブランド運営を再起したい」「社会とのつながりたい」という姉妹の思いが一つに ママ向けブランドデビューに向けて、小柳かおりさんと妹のちはるさんが初めて戦略会議を行ったのが2024年5月のこと。そのほぼ同時期には半年後に展示会を開くことを決め、制作を始動させた。ワンピース制作の様子は連載の第1回、第2回が詳しいのでぜひ、参照いただきたい。そして、ブランドを運営するに当たってはただ洋服を制作するだけでなく、さまざまな労力がかかってくることを、小柳さんは経験済みだった。 「生産管理から外注管理、出荷、出荷後フォローまで、洋服を制作して販売する過程でやらなければいけないことは満載です。2021年に初めて量産形態でブランドを立ち上げた時、とても疲弊したことが強く記憶に残っていて。一人で何とかやりきりましたが、継続していくほどの力はなく、しばらくは技術習得と並行しながら、細々と運営するのが精いっぱいでした」 今回のブランドデビューでも、当時と同じタスク量が発生することが想像でき、一瞬不安がよぎったという小柳さん。しかしながら、「ブランド運営を再起したい」「社会とつながりたい」という姉と妹それぞれの思いが一つに重なり、突き進む決心がついた。 「まさに〝重い腰を上げる〟覚悟が必要でした。中途半端にやってしまって売れなかった場合はそれまでかけてきた制作コストが無駄になってしまいますし、最後までやり切らなければ意味がありません。でも、今回は妹と分担することで、もう一度停滞していたブランド運営をリスタートできるのではないかと思ったんです」 こんなにミシンを踏み続けたほどはないほど!展示会に向けてのラストスパート 展示会に向けて小柳さんが仕上げたのは、無地ネックレスワンピース(4色展開)、水玉ネックレスワンピース(2色展開)、巾着ワンピース(4色展開)の全10種類。さらに各2着ずつ在庫分も仕上げ、制作期間は実に2か月におよんだ。できる限りの時間を縫製に充てるため、服飾に関する応用を身に付けるべく通っていた夜間学校を辞める決意をする。 「夜間学校は中途退学に該当すると思うのですが、正式な届は出していません。展示会準備を優先して欠席が続いたため、次の学年に上がるために必要な単位が未達で、進級条件を満たせず。1年分の学費を納入済みですが、卒業は諦めており、このまま辞めることを担任の先生には伝えています。夜間学校の授業では、実務的な部分や知識の深掘りまではされないため、物足りなさも多少感じてはいたこともあり。すでに卒業した服飾学校で学んだことも多かったので。縫製工場が運営するソーイング教室へは通い続けつつ、ブランド運営を中心に置いて、必要な知識はこれからも学び続けたいと思っています」 展示会に向けて準備を進める中で、「今後はブランド運営に注力していこう」という思いが芽生えたという小柳さん。それと同時に「自分はできる」という自信がついたことも、夜間学校を辞める後押しとなったようだ。そして、自身が一人で縫製に向き合っている間、ちはるさんも何かできることがないかと考え、いろいろと挑戦してもらったそう。 「9、10月の量産工程に入ってからは手を動かすのはほぼ私だけでしたので、その間、妹にもできることがないかと思い、アクセサリー制作を提案。自身でパーツ専門店の店員さんに教えていただくなどしながら、ネックレスやブレスレットを作り上げていました。また、展示会当日に使う値札シールの作成や、展示会の招待状送付など、洋服を用意する以外に必要な事務作業を担当してもらいました」 ゼロからスタートした新ブランドの集大成!いよいよ展示会でワンピースをお披露目 迎えた展示会初日は雨天ということもあり、来場者が数人という芳しくないスタートではあったが、最終日は2人で対応しきれない場面もあるほどだったという。招待状を送った顧客や友人のほか、SNSで知って来てくれた人などが来場し、盛況のうちに3日間の展示会は終了した。毎回、展示会や販売会を行うたびに「実際に着ていただいた姿を見ると、デザイン画がリアルになった衝撃、想像が具現化した感動を覚えます」と語る小柳さん。そして、感動だけでなく、試着をしてもらうことで改善点も見えてきたという。 「巾着ワンピースはウエストが太めでゴム仕様のため、ファスナーが自力では上がりにくく。サンプル制作当時から気にしてパターンの改善を図ってきたのですが、次回の展示会でリベンジしたいと思っています。また、150㎝未満のお客様にご試着いただいたのですが、9AR(日本人平均の身長158㎝)をベースにしているため、袖丈や身丈が合わなかったというケースも。多少のサイズ調整は可能なのですが、オーダーメイドまでは想定していなかったので対応しきれず、期待して来場くださった方に残念な思いをさせてしまいました。こちらは次回までの課題として、小柄な方でも着用可能なサイズ展開をしたいと強く思い、すでに取り組みを始めています」 対面で来場者と接することができる展示会では、洋服制作の背景などもきちんと説明できる点がいいと、小柳さんは改めて感じたそう。 「お客様のほとんどがSNSを見てくださっているため、ブランドの背景やこれまでの活動を理解してくれています。数年前から気になっていて、今回来てくださったという方も。発信は一方通行になりがちですが、お客様の反応が見られる対面はいいなと、そして思いが届いていたんだと感動しました。この体験ができたことで、また継続的に展示会をやっていこうという思いを固めています」 ブランド運営について模索していた日々から抜け出し、新たなステージへと! 新ブランドのお披露目は無事終了したわけだが、展示会にかかる費用も気になるところ。会場費については漫画でも触れられていたが、それ以外にはどんな経費がかかってくるのだろうか。 「会場費、洋服の制作費も含めて初期費用は100万円ほど、広告費をかけるならもっと必要ですね。私の考え方として、起業はいきなり大きなコストを使って打ち出すというより、小さく始めて試しながらスケールアップさせていく方がいいと思っています。そのため自己資金で賄える最小限のコストで、今回の制作から展示会開催まで行いました。広告費は一切使わずに自分たちのSNS運用だけでPRし、撮影もヘアメイクをつけずカメラマンさんのみ外注。制作費も自身で縫製するなどして、コストを抑える工夫をしています。支払いが発生したのはパターン制作費、着数の材料代、タグや品質表示、ショップバッグ、ポスター、商品撮影費、会場レンタル費、展示会で使う備品、妹が上京する宿泊・交通費でしょうか」 「ただし、コストを抑えるために自分たちが抱えすぎると、今度は新しいことができなくなるため、そのために外注費をかけていくことも必要かなと。現在は初期投資の段階だと考えていますので、まずは着実にブランド運営を継続させ、費用回収できるよう進めています。ブランドそのものが無くなってしまうと買ってくれた方に残念な思いをさせるため、まずは安全運転で継続していくことが至上命題です」 今回、新ブランドというゼロ地点からスタートし、3日間の展示会まで全力で走り抜けた小柳さん。この半年間を振り返ってみて、今どう感じているのかを聞いてみたところ、「挑戦は新しい挑戦を生むんだと思います」という答えが返ってきた。 「何もないところから、〝実現させる〟という強い信念で行動に移したからこそ、次への改善点や目標が見えたと思います。2022年に開催した展示会を最後に停滞していた1年半を振り返ると、重い腰を上げる覚悟もできていなかったのかなと。どうブランド運営していいかを模索し続けていましたが、ようやくその暗いトンネルを抜け、この状態なら持続可能であると確信を持てました」 ブランド運営というかねてからの夢を本格的に再始動しようと決意を新たにできたのは、ちはるさんという頼もしい味方、そして相棒ができたことも大きい。 「一人と二人では、できることも全然違いますしね。そして、やはり姉妹なので初めから信頼もあり、変な遠慮や気遣いがなく、自分の都合や考えを腹割って話し合いながら進められるというメリットがあります。妹も初めて制作したブレスレットが売れるという経験ができたことが自信につながったようで。展示会が終わるころには、また次に向けてアクセサリー制作を継続したいと宣言していました。そのためにも、アルバイトの稼働時間を見直すなど、少しずつ軸足をブランド運営にシフトしていっています」 妹というパートナーを得たことで、今回の展示会は質的に向上し、今までで一番と言えるものになったという。そして、2人での運営はまだスタート地点に立ったばかりだが、すでに次へのステップに向けて走り出している。 「先日の展示会を終えてすぐに、次の予約を行いました。2025年4月12・13日、自由が丘で開催予定です。まずは小柄な方向けのサイズ展開を中心に取り組んでいくため、サイズ確認を一緒に行なっていただけるモニター様の募集を開始。〝制作段階からご興味を持ってくださるお客様を巻き込んだ商品開発〟を実施するという新しい取り組みです。ブランドの関係者が増えるとそれだけ運営者としての責任感が強まり、自分たちが宣言したことをやり抜く覚悟を求められます。その分、プレッシャーも感じていますが、新しい挑戦と信じて取り組んでいきたいと思っています」 近年、自身で制作した洋服のほか、アクセサリーや服飾雑貨などを個人で販売しているケースも増えてきている。そこで、最後に小柳さんのようにブランドを立ち上げたいと考えている、アラフォー・アラフィフ世代に向けてアドバイスをもらった。 「やはり起業の場合は、セーフティゾーンの確保が絶対に必要ではないでしょうか。私は副業の状態で起業していますので、仮に失敗しても、やり直しができたり、生活に支障が出ないという状態です。いきなりアクセル全開で新しい世界に飛び込むと、若い時と違ってリスクが高いのかなと。時間をかけて少しずつシフトさせていくくらい慎重になってもいいと思っています。セーフティゾーンが確保されていれば、精神的にも余裕を持てますし、逆に物事がスムーズにいくのではと。そして、歳を重ねるほど過去の経験から頭で考えがちで、行動することが怖くなるもの。でも、どんな状況であっても、自分は受け入れて乗り越えられるという強い気持ちを持って臨んでいくことも、時には大切ですよね」 文● 杉山幸恵