サケを頭にのせるシャチがネットで話題に、真相は 「望ましいことと捉えたい」と専門家
1980年代の流行が再燃? 実はその後も何度か目撃、なぜ今話題に
あれは1987年。映画『ビバリーヒルズ・コップ2』とバングルスの曲「エジプシャン」が大ヒットした年だ。そして、米国ワシントン州のピュージェット湾では、シャチが死んだサケを額に乗せて泳ぎ回っていた。 【動画】ホホジロザメをシャチがソロ狩り、2分の早業 「群れの全体に広まっているようでした」と米ワシントン大学フライデーハーバー研究所の生物学者デボラ・ジャイルズ氏は振り返る。 この行動はKポッドというグループのメスから始まったが、数カ月のうちに、JポッドとLポッドでも「サケの帽子」が流行し、最終的に、南の定住型サザンレジデントを構成する3つのグループのすべてで見られるようになった。71頭から成るサザンレジデントはサケのみを食べる。 しかし、シャチたちの熱は一気に冷め、流行は過去のものとなった。写真家のジム・パソラ氏が2024年の10月25日に、頭に銀色の魚を乗せたJ27ブラックベリーというシャチを撮影するまでは。 この数十年間に、サケの帽子の目撃情報は他にもあった。流行の再燃かと今回の報告がインターネットで注目を集めているのは、おそらくパソラ氏の写真が素晴らしいためだろう。 ブラックベリーはまだ32歳で、1987年のサケの帽子の流行を直接は知らないが、当時のJポッドのメンバーからその行動を学んだ可能性はある。 「シャチはとても賢い動物です」とジャイルズ氏は話す。ジャイルズ氏自身もサケの帽子を1度だけ見たことがある。「彼らの脳の辺縁系は人よりはるかに発達しています。記憶、感情、言語に関連する部位です」
なぜ餌をかぶるのか
シャチがなぜ餌をかぶるのかは、あまり知られていない。 コミュニケーションの一形態なのだろうか? 交尾の相手に好印象を与えるためだろうか? それとも、ただふざけているだけなのだろうか? 「すべて推測であり、本当のことはわかりません」とジャイルズ氏は言う。 サザンレジデントは特定の生息環境に適応した群れだ。北米の太平洋岸北西部沖に生息し、魚しか食べない。世界のほかの地域には、サメを狩ることに特化した群れもいる。 乱獲やダムの建設などが原因で、サケが減少の一途をたどっていることもあり、サザンレジデントのシャチは米国で絶滅危惧種に指定される事態となっている。 しかし、2024年秋、ピュージェット湾には珍しく多くのサケがいた。そのため、シャチたちはようやくリラックスして楽しむことができるようになり、餌で遊ぶ余裕が生まれたのかもしれない、とジャイルズ氏は考えている。ジャイルズ氏はNPOワイルド・オルカの科学研究責任者でもある。 実際、パソラ氏が写真を撮った週、一帯では珍しく10日連続でJポッドが目撃されていた。 ジャイルズ氏の「遊び説」は、研究者の間で確認されているサザンレジデントの他の行動パターンとも適合する。ジャイルズ氏によれば、餌が不足すると、シャチたちは採餌に費やす時間が長くなり、休息や社交の時間が短くなる。