【自民党総裁選】少子化対策は?京大の柴田教授にきく
■残業を減らし男性も家事育児を担うことが少子化対策につながる
柴田教授)私としては、少子化対策として根本的には働き方改革が重要だとずっと提言しています。具体的には残業の割増賃金率を高めて、残業させにくくする。男性がより短時間で働き、家事育児を担えるようになれば、女性の家事育児負担が減り、女性にとっても結婚や出産のハードルが下がるでしょう。残業の割増賃金率は、アメリカや多くの欧州諸国では50%ですが、日本では基本的に(月60時間以下の時間外労働については)25%ですので、段階的にでも50%に引き上げるべきです。 あとは「11時間の勤務間インターバル」(終業から次の始業まで11時間の休息時間を設ける)を段階的に義務化したり、いずれは法定労働時間を段階的に短縮することも検討すべきでしょう。仮に、もっと長時間働く選択肢もつくるなら、これらの残業割増率の引き上げなどをしっかり進めた上で、たとえば、すでにある「高度プロフェッショナル制度」の年収要件は今1075万円以上で対象者は1340人ですが、その年収要件をもう少し引き下げて対象を広げるとか、裁量労働制の対象業務が今年4月に増えましたがさらに増やしていく、などの案が考えられるかと思います。 基本的にほとんどの人は、年収が減らないのであれば、残業時間を減らして自由時間を増やしたいと願っています。残業割増率が上がれば、より短い残業で同じ年収を得られるようになるので、労働者にとってもありがたいでしょう。 少子化対策としても働き方改革、とりわけ男性の労働時間を減らすことが重要ですが、石破さんや小泉さんや加藤さんといったごく一部の候補者しかそれを主張していません。そこは残念だなと思います。
■正規雇用男性の労働時間を1日2時間減らすと出生率が0.35上昇との試算が
柴田教授)最近、私自身の分析として、どのぐらい労働時間を減らしたら、出生率がどのぐらい上がるのかを細かく試算しました。日本で長時間働いているのは正規雇用の男性で、平日の1日平均で10時間。一方、先進諸国で男性のフルタイム労働者の労働時間が最も短いのはデンマークやオランダ、ドイツなどで平日1日8時間ぐらい。 では、仮に10年間かけて日本の正規雇用男性の労働時間を平日1日2時間減らすと、10年後の出生率がどうなるかと試算すると、 0.35 上がるという結果になりました。 そもそも政府の「加速化プラン」の実施で出生率が 0.1 上がるという試算は以前から申し上げています。そして今後10年間で若者の賃上げが大幅に実現すると出生率は0.2上がると政府の資料で試算されています。それらが反映されても2035年時点の出生率は1.3ぐらいでしょう。 一方、希望出生率={既婚者割合×夫婦の予定子ども数 + 未婚者割合 × 未婚結婚希望割合 × 希望子ども数}×離別等効果は現在1.6ですから、加速化プランと賃上げが実施されても、まだ0.3希望出生率には届かない。そこで今後10年かけて、正規雇用男性の労働時間を1日2時間減らすと、出生率は 0.3ぐらい上がって2035年に希望出生率 1.6 が実現されるという試算になります。DX や AI などを活用し、生産性を上げることで労働時間を減らしていく。残業割増率を50%に引き上げることで残業の経営コストを高くし、「残業しない人のほうが生産性が高くて偉い」という認識を広げる。欧米ではすでにそうなっています。