ペリエ ジュエが挑む、シャルドネの美を極めたサステナブルなシャンパーニュとは
2024年10、11月は大手メゾンのCEOや最高醸造責任者が続々と来日。創立以来の伝統を守り、最高のものをつくり続ける彼らに、ブランドの過去、現在、未来について話を聞いた。ペリエ ジュエ編。 【写真】ペリエ ジュエ「ベル エポック 2015」
自然のなかから生まれるエレガンスを大切にする
「入社した日、メゾンの庭に立って感じたことは『ああ、ここは私の家だ』という安心感でした。花と植物に彩られたメゾンの佇まいは穏やかで、幸福感に満ちていました」 こう語るのは、ペリエ ジュエ第8代最高醸造責任者のセヴリーヌ・フレルソン氏だ。就任は2020年のことで、グラン・メゾンであるペリエ ジュエ初の女性セラーマスターの誕生は、当時業界で大きな話題となった。 ペリエ ジュエは1811年に創設されたメゾンで、初代のピエール・ニコラ・ペリエとローズ・アデル・ジュエの夫妻が自然とアートをこよなく愛したことから、その精神はメゾンの礎となっている。シャンパーニュはたおやかで優美なスタイル。シャルドネを美しく表現することから“シャルドネハウス”と称される。 アートとも縁が深く、アール・ヌーヴォーを代表するガラス工芸家エミール・ガレがジャパニーズ・アネモネ(秋明菊)を描いたボトルで知られるトップキュヴェ「ペリエ ジュエ ベル エポック」はとりわけ有名だ。 フレルソン氏がメゾンで最初に行ったのは、アーカイブに眠る歴代セラーマスターのシャンパーニュの試飲だったと言う。 「味わいのなかにあるメゾンの歴史や哲学を学びたいと思いました。歴代セラーマスターの人となりまでを感じられ、興味深かったですね。また、おそらくは2代目のシャルルがつくったであろう1874年のヴィンテージを試飲する幸運に恵まれたのですが、まだ微かに泡が残っていて、甘美な味とオレンジマーマレードの香りが印象的でした。歴史が私に語りかけてくれた瞬間とでもいえるでしょうか」 以来、彼女は真摯に仕事と向き合ってきたが、なかでも心を砕いたのは気候変動に対応するサスティナブル栽培への取り組みだった。2021年からは環境再生型の畑づくりを開始、ソラマメやシロツメクサなどのカバークロップを植えた。こうすることで地中に微生物が増え、ブドウの根に栄養が行きやすくなる。同時に、虫や鳥なども棲みつき、生物多様性が実現できるという。HVE(環境価値重視)認証やVDC(シャンパーニュ地方における持続可能なブドウ栽培)認証も取得した。 「今は『どうすればよりシャルドネを美しく際立たせることができるか』を新たなテーマとして考えています。その一環として、2024年から一部だけシャルドネの樽発酵を実験的に始めました。自然のなかから生まれるエレガンスを大切にするというメゾンの伝統を守りつつ、さらに進化していく。そして次世代にバトンを渡すことが、私の大切な仕事だと思っています」 Séverine Frerson 2018年ペリエ ジュエ入社、2020年より最高醸造責任者に。自然を愛し、休日は家族と自然のなかで過ごす。芸術的感性を持ち、シャンパーニュの表現も豊か。親日家で「日本ならではの花に合うのが楽しみ」と語る。
TEXT=安齋喜美子