自転車で巡った能登半島 "復旧"すらままならない現地のリアル
元日の大地震から約9ヵ月が経過したが、能登半島の復興への道はまだ先が見えない。今回、ノンフィクション作家の前川仁之氏が珠洲市、輪島市を中心に自転車を使って奥能登取材を敢行。目をそらしてはいけない現地の今をルポした。 【写真】家屋は倒壊し、マンホールが1mも飛び出す珠洲市の惨状 * * * ■解体撤去の完了率は? 「地震の影響で滑走路に小さな亀裂があり、着陸後、滑走中に揺れることがございます」 着陸態勢に入り、飛行機内のアナウンスが告げる。薄い雲を抜けると窓外にギザギザした山林が見えた。輪島漆器をはじめとする伝統工芸を支える能登ヒバの林だ。9月7日午前10時、のと里山空港に降り立った。 初日の目的地、珠洲(すず)市中心部に向かう珠洲道路は奥能登の内陸部を貫く動脈だ。その立派な道路の随所に亀裂や地割れが残る。登坂車線に盛大な地割れが生じたり、50㎝もの隆起で地層がむき出しになったりで、通行止めの所もある。 加えて、そこかしこで山肌がえぐれて赤土があらわになっている。集落に通じる道などには、フレコンバッグを積んで応急的に土砂を抑えているため道幅が減じている所もある。豪雨に襲われたら、また通行止めになりそうだ。 道中に点在している集落を見る。屋根瓦の破損やブルーシートでの補修、ひどいもので棟が波を打っている家が見られる程度で、倒壊した家屋は見当たらない。 だが、見た目の被害は軽微でも、屋内はひどそうだ。「道の駅桜峠」のトイレは仮設のみ使用可能となっていた。能登町と珠洲市の境に近い「駒渡(こまわたり)ポケットパーク」は、トイレが使用不可で、水道関係は復旧が遅れているものとみえる。 ただ、こうした不便はあるものの、路面に注意さえすれば、能登瓦の黒い屋根が並ぶ美しい集落風景を楽しむことはできる。 なんだ、大したことないじゃないか―そんな楽観は、林道を使ってひと山越え、有名な景勝地・恋路海岸に出て間もなく覆されることになる。そこにあったのは「公費解体」の現実だった。 公費解体とは、地震で半壊以上となった建物を、地方自治体が所有者に代わって解体撤去する制度だ。 その進捗(しんちょく)状況は、8月末時点で石川県内全3万2410棟の想定数のうち、3396棟が完了したところ。完了率10.5%だ(『北國新聞』9月7日の記事参照)。 現場で働く男性はこう話す。