自転車で巡った能登半島 "復旧"すらままならない現地のリアル
「家の罹災(りさい)判定は中規模半壊でした。直せるところは自分で直したんですが、キリがなさそうで、納屋(なや)と土蔵は5月に解体申請を出して、母屋(おもや)は、お盆に親戚が集まったときに相談して、こちらも解体を決めました。母は金沢市内の仮設住宅で暮らします。今は家具から畳まで家の中にあるものを少しずつ運び出しているところです」 珠洲市内には災害廃棄物の回収所が3ヵ所あるそうだ。被災者は、そこまでゴミを自力で持っていかねばならない。菅田さんはそのために、親戚と共同で軽トラックを1台買った。補助金などなく、自腹である。 筆者も1軒、持ち出しを手伝ったが、半年以上の雨漏りを受けた家具やゴミの異臭が服にこびりつく。これに水害が加わった後の作業となると、想像するのもしんどい。ちなみに輪島市では、分別し「災」マークをつけて表に置いておけば災害ゴミを回収してもらえる。 「家の再建は今のところ考えていません。母は高齢だし、金沢の仮設住宅で暮らせるので」(菅田さん) 一方、珠洲市蛸島町の櫻井さん宅はまだ新しい建物で、近所が軒並み全・半壊で仮設住宅へ移る中、自宅での生活を続けられた。そんな櫻井さんは周囲の解体が進んだ後の見通しをこう語る。 「公営住宅が建ったら戻ってこようかな、という話は聞きますけど、自分で家を建てようって人はほとんどいないかなあ。なんせ今、1坪140万円ていわれてるんで、とても手に負えん。皆さん高齢の方なんで、2000万円ほど借金する必要があるけどなかなか難しい。後継ぎの人でもおれば建てるんでしょうけど」 輪島市でも同様だ。筆者が泊まった「漁師のペンションハトヤ」の松村香保里さんは、再建する家は「3分の1あればいいほう」と予想する。 「平屋でも1000万円くらいはかかる。補助金が300万~400万円出たとしても、収入源が乏しい高齢者の方には厳しいと思います」 ■農家の痛手 米価の高騰が庶民を苦しめているご時世のこと、農家の被害についても見ておこう。 能登町内陸部から輪島市に入って間もなく、「にほんの里100選」に選ばれた、棚田が美しい金蔵(かなくら)集落に入る。だが、遠目にも棚田は草ぼうぼうだった。 草刈り機の手入れをしていた久田さんに話を聞いた。戦中生まれの81歳だ。