作品が重なり合って一つの音楽のようになる、フィリップ・パレーノのインスタレーション|青野尚子の今週末見るべきアート
〈ポーラ美術館〉で大規模なインスタレーションを展開しているフィリップ・パレーノ。フランスを代表する現代アーティストの個展は周囲の環境とも呼応するものです。展覧会のため、来日したパレーノに聞きました。 【フォトギャラリーを見る】 パリを拠点に活動する現代アーティスト、フィリップ・パレーノ。1980年代以降、映像や音、オブジェ、ドローイングなどを制作してきた。これまでニューヨーク近代美術館やパリの〈ブルス・ドゥ・コメルス〉、ロンドンの〈テート・モダン〉などで個展を開催している。
ポーラ美術館での個展は「この場所、あの空」というタイトルがついている。これはパレーノが提示した「Places and Spaces」を意訳したもの。このタイトルに込めた思いは? 「Placesは箱根という場所、Spacesは建築的空間を指している。この二つのニュアンスを一度に表現したいと思ってこのタイトルにした。それは置き換えるとヒア&ゼア、“ここ”と“よそ”を一度に言えるということでもある。あと実は、僕の大好きなドナルド・バードというミュージシャンの曲のタイトルでもあるんだ」
展示空間は大きく4つのスペースに分かれている。大きな窓から見える樹木を背景に空中を魚が泳ぎ回る幻想的な部屋は《私の部屋は金魚鉢》というインスタレーションだ。その先にある部屋には映像作品《マリリン》と《雪だまり》というオブジェがあり、部屋から見えるテラスには《ヘリオトロープ》が置かれている。やや小降りな展示室5にはドローイングと、ガラスランプを使った《幸せな結末》という作品が並ぶ。
金色のバルーンが天井いっぱいに広がる作品は《ふきだし(ブロンズ)》だ。その部屋に隣接して映像作品《どの時も、2024》と《HDKの種子:2025年の預言》、電球を使った《マーキー》、蓄光インクで画面が変化する作品《暗転(ボルダーズ・ビーチ)》が展示されている。
上記の作品のうち、《マリリン》と《雪だまり》がある広々とした部屋には外にある《ヘリオトロープ》から反射した光が入り込むことがある。《マリリン》は音声のついた映像作品なので、《雪だまり》や《ヘリオトロープ》を鑑賞しているときも音が聞こえてくる。複数の作品が干渉しあって、一つのインスタレーションのようにも見えてくる。 「あえてそういったことが起こるようにしているんだ。個々の作品は僕にとって音符のようなものであって、その音符を並べて一つの曲を作るような気持ちで展覧会を構成している。ここでは《マリリン》《雪だまり》《ヘリオトロープ》が一緒になって新たな形を生み出す。それは土地によって異なるものになるから、同じ作品であってもこの場所、この空間でなければ生まれない曲になる」