「日本の至宝」川村記念美術館休館に投資家の影、収蔵品売却の可能性も
(ブルームバーグ): 116年の歴史を持つ化学メーカーDICが、業績不振の中で保有する美術館を巡って、変革を求めるアクティビスト(物言う株主)の標的となっている。市場関係者や美術ファンが注目するのは、推定計10億ドル(約1400億円)超に上る所蔵品の行方だ。
事の発端は、DICが先月27日、運営するDIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)を来年1月下旬から休館すると発表したことにある。同社は資本効率の観点から規模縮小と東京への移転を軸に事業を見直すと説明。美術館は20世紀の現代美術の世界的なコレクションで知られるが、このまま閉館する選択肢も排除していない。
「日本が誇る、至宝ともいえる美術館」。美術メディア「美術手帖」の岩渕貞哉総編集長は同館を高く評価する。ピカソやモネ、ルノワールなど日本でおなじみの画家に加え、マーク・ロスコなどの抽象表現主義、フランク・ステラらのミニマリズムなど、第2次世界大戦後に現代美術の中心地として花開いた米国の良質な作品群がそろう。
地元佐倉市は「移転・閉館はわが国文化芸術の普及・発展に大きな損失」として、ウェブ署名活動を開始。18日現在、署名件数は約3万5000に上る。
コレクションの白眉は、ロスコの絵画7点が飾られたロスコ・ルームだ。岩渕氏は「ロスコが最良と考えた自然光に近い環境にたたずんでいると、最初は見えなかった色彩が浮かび上がってくる。他の画家の作品と並べて展示されていては得られない感覚。これが常設展示で必ず見られるのは本当に貴重で、海外からもファンが見に来るほどだ」と指摘する。
ロスコはコレクターにも人気の作家で、ウォール街も巻き込んだ贋作(がんさく)騒動は記憶に新しい。2021年には作品1点が8250万ドルで落札されている。
決定の背景には、東京証券取引所の市場改革など資本効率を重視する流れがある。DICの取締役会は同館について「保有資産という観点から見た場合、資本効率という側面では必ずしも有効活用されていない」との認識を示し、12月までに今後の方針を決めると公表。速やかに計画を実行に移すため、25年1月下旬からの休館を決めた。