「日本の至宝」川村記念美術館休館に投資家の影、収蔵品売却の可能性も
DICコーポレートコミュニケーション部長の小峰浩毅氏は、美術館の経営は「近年はずっと赤字だった」と話す。DICは23年12月期に399億円の純損失を計上するなど業績も厳しく、同12月には物言う株主として知られる香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメントが大株主となっていたことが明らかになった。
オアシスの最高投資責任者(CIO)を務めるセス・フィッシャー氏は12日、ブルームバーグの取材に対しDICと対話を続けているとし、美術館は場所が不便で「見学している人よりも警備員の方が多い日が目立つ」と述べた。アシンメトリック・アドバイザーズのアナリスト、ティム・モース氏は、創業以来の取引先である印刷業界が縮小を続ける中で、DICが事業と無関係の美術品を所有している理由はほとんどないと断じる。
和光大学経済経営学部の平井宏典教授は、美術館に期待される作品収集や保存、研究機能は市場原理になじまないとし「黒字赤字の議論をしていること自体がおかしい」とくぎを刺す。18年に政府が、美術館が作品の売買に積極的に関わるよう促す構想を打ち出した時、全国美術館会議が、作品収集について「投資的な目的とは明確な一線を画さなければならない」と反発する声明を発表したのはその一例だ。
平井氏は企業ミュージアムはあっていいが「資本の論理を必要以上に適用できないと分かった上で運営を続ける覚悟が必要だ」と説く。創業者らが自分のコレクションを社会に開いた後、「本人が亡くなり、経営環境も様変わりする中で、美術館の使命や役割を再定義することなしに漫然と経営していては誰の理解も得られない」とも指摘した。
前澤友作氏が購入の意向
休館騒動のもう一つの焦点は、収蔵品大量売却の可能性だ。DICが保有する全作品の資産価値は簿価ベースで112億円だが、美術手帖の岩渕氏は、公表された所有作品のリストの一部について「ニューヨーク近代美術館(MoMA)などの世界を代表する美術館にあってもおかしくないようなコレクション」だと評価。「オークションの目玉になるような作品も多く、少なく見積もっても10億ドル以上の価値はありそうだ」と見通す。