日本の体験格差と同じ…インドの貧困家庭に育った青年がNYでプロダンサーになるまで
貧しい家庭から、遅いスタート
インドのGDPは、2027年に日本を抜き世界3位になるという見通しもある。日本貿易振興機構によると、2013年度に29.17%だったインドの貧困率は、2022年度には11.28%と改善した。それでもなお、州ごとによる貧富の格差は大きい。またロイターの報道によれば、「世界不平等研究所」の調査報告で2023年末のインドでは最上位1%の超富裕層が保有する資産が同国全体の富に占める比率が40.1%だと分かったという。つまり、GDPが上がっていても、富の集中度は国民の1%の富裕層がほとんど占めているのだ。場所によっては9倍程度の差があり、どのように格差を是正するかが課題だという。 インドでは、ダンスは裕福な家庭の子の趣味とされ、マニーシュさんは、小さい頃にダンスに出会うことも身体能力を生かすこともなかった。大学に入ってから、ボリウッド映画を知り、路上でバク転を練習するようになって、ダンスにはまった。いわゆるブレイキンだ。 インタビューの緊張を和らげようと、筆者はマニーシュさんに「ブレイキンがパリオリンピックの種目にあって、出たくなったんじゃないですか?」と投げかけた。「インドのストリートでバク転を始めたのがスタートだから、ブレイキンもチャンスがあればまた、やってみたいです」 ブレイキン、その後に出会ったバレエ、現在続けているコンテンポラリー、好きなのはどのジャンルなのだろうか。 「全部。お互いに勉強になるんです。ブレイキンはバレエの役に立つし、バレエもコンテンポラリーに役立つから。自分が学べて触れることができて、本当に運が良かったなって思っています」
お下がりの破れたダンスシューズで
ダンススクールを探し、通えるようになったものの、シューズが買えなくて、破れたお下がりをもらい、母がつくろった。父と母は、ダンスよりも、大学を出て稼げる職業に就くことを願っている。一方で、田舎に住む祖母は、孫がやりたいことをやるように後押ししてくれた。 日本で子供の貧困の取材をした際、「貧困は連鎖が多く、世代間で断ち切らないといけない」と聞いた。そもそもインドは、格差や貧富の差が激しい国だ。 マニーシュさんの祖父も父もタクシー運転手で、父は息子に継がせたがらなかったという。父は、「マニーシュには学業を修め、いい仕事に就いてほしい。多少の借金をしてでも大学に通わせた」と劇中で語っている。母も、「ダンスは金持ちの趣味。庶民は働きに出て、職場に通ってお金を稼ぐ。お金は、子供たちの教育のために費やしてきた。娘の結婚費用は息子に頼るしかない」という。 マニーシュさんは「特に自分が暮らしたムンバイでは、格差が際立っている気がします。ものすごい裕福な人もいる一方で、非常に貧しい人もいる」と語った。 「我が家の方針としては、お金を払うんだったら教育にのみ、ダンスを習う余裕はないからって言われていた。自分も貧しい家庭の出身で、ダンスへのアクセスはなかったし、それこそスポーツへのアクセスもない。例えばスポーツするのも、シューズやユニフォームが必要だけど、そういうものもなかった。何かのレースでさえ参加したことがなかった。物を書くのはすごい好きで勉強はできたんだけれど」