ヒアリ上陸、私たちはこれから何に備えるべきか?
こうした技術は全て生物科学の進歩によって支えられている。かつて他国でヒアリの防除が失敗しているとしても、現在の日本にはそうした失敗事例も含めて最新の情報および技術が備わっており、少なくともヒアリを野放しに増やすようなことは起こらないと考える。
ヒアリ問題に見るこれからの日本人の課題
今回の「ヒアリ騒動」は、我々日本人とヒアリとの果てしない戦いの序章にすぎない。中国との貿易が続く限り、ヒアリの侵入は今後も続く。また中国の貿易相手国はアジア全体に広がっており、それらの国でも日本と同様の事態を迎えていると考えなくてはならない。今後ヒアリの分布はアジア全体に拡散する可能性が高く、日本に侵入してくるルートはさらに多様化してくると予測される。もはや日本一国で防除を進めていても、根本的な問題解決には繋がらず、中国におけるヒアリ防除に対して技術支援することも含めて、アジア全体で連携してヒアリ対策に取り組むといった国際協力が必要となるであろう。政府には外交問題としてもヒアリ対策を検討していくことを強く望む。 それにしても、足元のアリに刺された場合の応急処置を考えながら生きていかなくてはならないとすれば、なんとも不自由な時代になったと言わざるを得ない。日本の身近な自然にはこれまでひどく危険な生物が生息するなんてことはなく、実にマイルドな生物相に囲まれて私たちは生活してきた。それがうかうか原っぱにお尻をついて花見やピクニックも楽しめなくなるなんて、実に寂しく、悲しい出来事である。しかし、そんな危険な外来アリを導いたのも、我々日本人が利便性を求めるあまり、グローバル化と高速化を推し進めてきた結果に他ならない。これを機会に、我々日本人が自身の生活スタイルを見直すことも大切なことなのであろう。 (国立環境研究所 生態リスク評価・対策研究室長 五箇公一)