ヒアリ上陸、私たちはこれから何に備えるべきか?
もし定着したら防除はできるのか?
大量の輸入貨物が海外から運搬され続ける限り、外来アリの侵入は続くであろうし、定着のリスクは減ることはない。あるいは、もうすでに国内のどこかで定着して、身を隠しながら増殖を続けている可能性だって捨てきれない。現在は港湾・空港における水際対策に集中している政府や自治体も、次は、どこにヒアリ・アカカミアリの巣が発生してもおかしくないと想定して、即時に防除できるよう技術と体制を整えておく必要がある。 この防除技術については我々国立環境研究所が、南米原産ですでに日本国内で定着を果たしているアルゼンチンアリを対象として開発した駆除手法が応用可能と考えている。このアルゼンチンアリも増殖力が強く、これまで各国で防除に苦戦してきた外来生物である。特に、ヒアリの根絶に唯一成功したとされるニュージランドでさえもアルゼンチンアリの防除には失敗している。 我々は働きアリの行動範囲を常に監視しながら、そのエリアにベイト剤を定期的に設置し、行動圏の変化に合わせて、防除エリアや薬量を見直すという「順応的」防除を実施することで数年以内にアルゼンチンアリの地域個体群を根絶させることに世界で初めて成功した。 さきにベイト剤は在来種も駆逐してしまう恐れがあると記したが、我々の手法は、あくまでもアルゼンチンアリの行動圏およびその拡大が予測される範囲に限って、ベイト剤を設置し、まずエリア内で多数派であるアルゼンチンアリにベイト剤を優先的に持ち帰らせる。薬効が現れてアルゼンチンアリの密度と行動エリアが縮小すれば薬剤の設置範囲と設置量も落として行く。そうすることでアルゼンチンアリから解放された在来種の復活を促し、最終的に在来種が多勢となって、アルゼンチンアリを絶滅に追い込んでくれる。まさに在来アリと人間の薬剤投与との協働によって外来アリを駆逐するのである。 現在、本技術をマニュアル化して全国レベルでのアルゼンチンアリ防除をすでに進行させている。実際、我々にとっては、このアルゼンチンアリ防除の技術開発は、ヒアリ上陸に備えた前哨戦という位置付けであった。その意味で、防除技術の基礎はすでに構築済みであり、ヒアリ・アカカミアリについても早期に定着を発見できれば、この技術を活用して速やかに根絶できると我々は確信している。もちろんアルゼンチンアリとヒアリでは生態特性に違いもあることから、ヒアリに合わせたより効果的な手法へとブラッシュアップを図っている。 また防除成功の鍵を握る早期発見技術についても、誘引効果の高いベイト剤の探索がすでに国内の研究者によって開発が進められており、さらに捕獲したアリを瞬時に同定するための技術として、国立環境研究所では、LAMP法という、ヒアリDNAを短時間に検出する手法を開発し、キット化を目指している。この方法を使えば、調査現場で採集したアリの生体のみならず、死体やその一部からでもヒアリかどうかを判定することが可能となる。