日銀・黒田総裁会見4月27日(全文1)粘り強く金融緩和を続ける必要がある
10年経過しても2%を達成できない現状をどう受け止める?
読売新聞:最後、3点目ですけれども、今回、展望レポートで初めて23年度の数字が公表されまして、物価上昇率は1.0%が中央値となっております。総裁は就任当初、2年で2%を達成すると宣言しておりましたけれども、大規模緩和から10年が経過しても2%を達成できないことを、現状をどう受け止めていらっしゃいますかということと、また、金融政策でそもそも物価を上げるっていうことは可能だと現在も考えていらっしゃいますでしょうか。 黒田:2%の実現には時間が掛かっており、そのこと自体は残念なことであります。3月の点検で確認したとおり、この主たる理由は、予想物価上昇率に関する複雑で粘着的な適合的期待形成のメカニズムが根強いということにあると思います。 もっともこのことは人々が実際に物価上昇を経験すれば、物価上昇が徐々に人々の考え方の前提に組み込まれていくということも意味しています。また、点検でも確認されたように、これまで大規模な金融緩和は金融環境を改善させ、需給ギャップのプラス幅拡大とプラスの物価上昇率の定着という効果を発揮してきております。実際、感染症の影響を受ける下でも物価上昇率は、一時的な下押し要因を除けば小幅なプラスで推移しており、経済の落ち込みに比べれば底堅い動きが続いています。先行き経済の改善が続く下で徐々に物価上昇率が高まっていくと考えられます。 日本銀行としては3月の点検を踏まえた政策対応によって持続性と機動性が増した長短金利操作付き量的・質的金融緩和により、強力な金融緩和を粘り強く続ける下で、見通し期間を超えることにはなりますけれども、2%の物価安定の目標は達成できるというふうに考えています。 読売新聞:ありがとうございます。それでは各社さん、お願いします。
海外との物価上昇率の違いをどう見る?
日本経済新聞:日本経済新聞の斉藤と申します。よろしくお願いいたします。今の物価に絡む質問で、関連して2点お願いしたいんですけれども。21年度の物価見通しを下方修正されて、これは携帯電話の影響が大きいということは認識しておるのですが、足元、世界を見渡すとアメリカとか欧州、カナダなどはかなり強い物価上昇率になっておりまして、この彼我の違いといいますか、例えばワクチンの接種の遅れみたいなものが日本は響いて景気、物価の見通しに差が出てきているのかとか、海外と日本の物価上昇率の違いというものを総裁がどのようにご覧になっているかということを教えてください。これが1点目です。 2点目、先ほどの質問にも絡みますが、じゃあ2%の物価上昇を目指していくときに金融緩和だけで十分なのかと。政府の成長戦略であったりだとか、日銀以外の主体がどのようなことをしていけば物価上昇率が高まっていくとお考えになっているのかというところについても考えを教えてください。よろしくお願いします。 黒田:まず第1点の、2021年度の物価見通しにつきましては携帯電話通信料の引き下げというものがかなり大きく下押ししているということは事実でありまして。一定の仮定を置いてモデル価格について試算してみますと、携帯電話通信料の引き下げは消費者物価の前年比をマイナス0.5からマイナス1%ポイント程度下押しするというふうに見込まれております。従いまして、それがなければ2021年度の物価上昇率というのはプラスであったんだろうというふうに見込まれます。 なお、米国等の景気回復のテンポ、あるいは物価上昇につきましては、ご指摘のような、1つには景気の回復が著しいと。その背景にはもちろんこのワクチンの接種がかなり進んでいるということもあるでしょうし、大規模な経済対策を打ったということもあるかもしれませんが、そもそも冒頭申し上げたとおり、わが国の物価上昇率につきましては予想物価上昇率というのが非常に粘着的で適合的期待形成に基づいて、なかなか、物価、賃金が上がるということを前提とした経済行動になりにくいという点があるということもあろうかと思います。 ただ、そうした下でも粘り強く大規模な金融緩和を続けることによって、これまでも経済も回復してきましたし、また、先ほど申し上げたように物価上昇率にもプラスの影響を持ってきたわけですので、今後とも引き続き粘り強く金融緩和を続けていく必要があるというふうに考えております。