「東京都知事」ってどんな仕事?
都知事の3つの顔
都庁が新宿に移転し30年が経つ。この間に鈴木俊一、青島幸男、石原慎太郎、猪瀬直樹、舛添要一、小池百合子と知事室の主は6人代わった。 都知事の仕事部屋(執務室)は新宿都庁の7階にある。7階全てが知事フロアとも言われるが、1人で使う執務室は100平方メートル(約30坪)。あとは会議室や応接室などが設けられている。 都知事には3つの顔がある。1つは都民から選ばれた政治家の顔。公約した政策を実現するのが仕事だ。2つ目は15.5兆円予算 、17万人都庁官僚制のトップとして大組織の人事・財政を切り盛りする経営者の顔。景気変動の著しいなか、税収を確保し歳出を効率化し、無駄な仕事を排除する都政健全化のかじ取り役だ。そして3つ目は首都東京の知事として諸外国の要人や大使らと交流し「TOKYO」をセールスする外交官の顔だ。 現職の小池百合子に置き換えると、4年前の初当選時に掲げた「待機児童ゼロ」「満員電車ゼロ」「ペット殺処分ゼロ」など「7つのゼロ」の実現が政治家としての仕事。経営者としては、通常の予算編成に加え、コロナ対策への補正予算と「財政調整基金」(貯金)とのバランスを考えること、さらに膨大な職員の人事管理、行政執行の指揮命令などがその役割だ。 外交官としての顔は小池に限ったものではない。都知事は各国大使や要人の訪問を受ける機会も多く、外国の賓客を迎えてのパーティーなども多いことから、外務省から大使クラスが東京都外務長として出向している。さらに、天皇に定期的に首都事情を説明し、春秋の園遊会など様々な皇室行事にも招かれるのも他の知事との違いであり、別格な存在と言ってよいかもしれない。 また、他の知事と異なり、都知事にはSPが2人付く。外部から任用した特別秘書2人、部長、課長クラスの職員秘書など約10人の秘書スタッフもおり、日常活動を支えている。
財政と政策と人望と
3つの顔の中で、外から分かりづらいのは「経営者」としての手腕かもしれない。喫緊の課題としてコロナ対策が立ちはだかることもあり、小池百合子知事は9000億円以上あった財政調整基金をほぼ全て、2度にわたる補正予算のために使い切った。延期された東京五輪・パラリンピックの関連費用も3000億円近くに上ると言われるなど相当の額になろう。今後、景気悪化が避けらないとの観測がある中、肝心の都財政が壊れていては元も子もない。財政のハンドリングを握る知事の手腕が問われる。 9年前まで13年半都知事を務めた石原慎太郎は 中小企業への融資を狙って創設した「新銀行東京」の失敗などから放漫財政でカネをムダに使ったというイメージがあるが、実はそうでもない。青島幸男から、美濃部都政末期(1068億円)より大きい1500 億円以上の赤字都政を引き継いだ彼は、大胆な行財政改革を断行し、1期目で黒字都政を実現した。必ずしも成功とは言えなかったが銀行税を創設して歳入増を目指し、一貫して黒字都政を維持。退陣時には3986億円の貯金を残している。政治的姿勢から評価は分かれるが、私が知る限り「石原さんの下で働くのは誇りだ」などと都庁職員からの信頼は厚く、慕われていた。 石原都政後、猪瀬、舛添、小池とポピュリストの知事が続いている。しかし、メディアや世論の評判と部下から見た知事の姿は必ずしも同じではない。舛添都知事も「判断が早く指示は適格だった」と内部の評判は悪くなかった。経営者のリーダーシップは部下のフォローシップがあって成り立つ。これが噛み合った時、巨大組織の力が出る。