「東京都知事」ってどんな仕事?
知事の一挙手一投足が、今年ほどクローズアップされた年はないだろう――。 新型コロナウイルス対策として政府が4月7日に発出した「緊急事態宣言」に基づき、全国の都道府県知事が現場責任者となった結果、知事の対応が注目され、政策力、決断力、実行力のあるなしまで露わになった。中でも「3密」「ステイホーム」などのキャッチフレーズを世に浸透させた小池百合子都知事は存在感を発揮した。しかし、当然のことながら都知事の仕事は感染症対策だけではない。都知事とはどういう仕事なのだろうか? 元都庁職員で行政学者の佐々木信夫・中央大名誉教授に解説していただいた。 ***
世界で一番忙しい人?
どうも都知事は昔から忙しいらしい。古い話だが少し紐解いておこう。 「世界で一番忙しいのは東京都知事だ」と来日した国連のワイズマン調査団長が評したのは50年前の東京五輪当時の知事、東龍太郎(1959~67年)。有楽町時代の都庁は廊下が狭かった。「そこを役人の1人が脱兎(だっと)のごとく駆け抜けていった」「何か災害が起こったのかと聞いた」「だが、格別のことはない。それが日常だ」と。神風知事と呼ばれた東知事周辺での役人も神風役人のごとく振舞ったという(磯村英一『東京都知事』潮新書、1966年)。 似た話が、4期16年という戦後最長都知事の鈴木俊一にもある。筆者も仕事ぶりを横で見ていた。 毎日、朝9時半には登庁し、執務室に平均5分刻みで来客がくる。平均の面会者は一日30人。局長など局務報告が5件、記者会見・会議が2回。夕方5時に退庁後はパーティーや会合が2件、登庁前も帰宅後も知事公館で人に会うという一日。朝、晩に真向法体操を30分ずつ、寝る前に必ずフランス語を1時間聴いてから床に入る。
1年を、休日・出張を除く280日でみると、なんと面会者8000人、局務報告1400件、会議出席560回、パーティー出席560回となる。それに海外出張が年3回(30日)、そこでの面会者も相当数に上る。都庁にくる海外からの公式、非公式の訪問客も加えると、年間数万人と直接会った計算になる。一年でまとまった休日は8月の一週間ほど。都庁以外の各種団体の会長職などの肩書きは170に及んだ。 小池百合子もこれに近い動きにある。