アナウンサーを25年続けて気づいた「聞き出し上手な人の一つの特徴」
テレビ朝日系の報道番組「報道ステーション」のメインキャスターを務め、現在はトヨタ自動車のオウンドメディア「トヨタイムズ」でキャスターとして活躍する富川悠太氏。 【図】上司による「害のある」フィードバックの特徴 25年ものキャリアがある富川氏だが、元はと言えば人見知りで伝える力がなかったと振り返る。試行錯誤しながら取材を続けてきたご自身の経験は、著書『報道、トヨタで学んだ伝えるために大切なこと』にて綴られている。その中から、聞き上手な人に共通する「相手の視点に立つ」ことに関する一節を紹介する。 ※本稿は、富川悠太著『報道、トヨタで学んだ伝えるために大切なこと』より、内容を一部抜粋・編集したものです。
相手の視点に立った聞き方
この人に聞かれると、ついつい何でも話してしまうという人が身近にいませんか?その聞き上手の人のコツは「話すときと同じく、自分の視点から離れて、相手の視点に立つ」ということです。 取材、インタビューなど、質問をして相手から情報を得たいとき、相手の視点に立つことができるとうまくいきます。いま、相手が聞いてほしいと思っていることは何だろう、言いたいと思っていることは何だろうと考えてみるのです。 うまくいかない取材やインタビューの例は、「自分の聞きたいことだけ聞く」というものです。いきなり質問をして、答えだけ聞けたら終了するなんて自分勝手もいいところ。それどころか、自分の聞きたい答えではなかったといって機嫌の悪くなる人は、いつまで経ってもよい情報を得られるようにはならないでしょう。 ......なんてえらそうに言いましたが、私も以前は数多くの失敗をしていたのです。テレビ局に入社してからしばらく、苦痛で仕方なかったのは「街録(街頭録音)」です。「街録」とは、街で道行く人に声をかけ、インタビューしたものをVTRにすることです。 あるニュースに対する反応や、「夏休みはどこに行きますか?」「マイブームは何ですか?」などリアルな声を拾っていく、あれです。ニュース番組、情報番組の定番ですから、きっと見たことがありますよね。街で声をかけられたことのある人もいるでしょう。 先に触れましたが、私は昔から人見知りで、初対面の人に気軽に話しかけるようなことができません。毎回、緊張してしまうのです。 「すみません、『スーパーJチャンネル』という番組ですが、ちょっとお話いいですか?」 こう声をかけるのですが、ものすごく勇気が要ります。いやな顔をされたり断られたりしてシュンとすることがしょっちゅうでした。でも、これが仕事です。やらなければなりません。何とか自分を鼓舞して、必死に声をかけ続け、ようやく撮れた頃にはグッタリという日々でした。 この頃、私の意識の中心は「どうやって質問に答えてもらおう」というところにありました。インタビューに対する返答が欲しかったのです。つまり、自分主体だったわけです。道行く人がせっかく立ち止まってくれても、すぐに収録に必要な質問をしていました。だからうまくいかなかったし、苦手意識から抜けられませんでした。 しかし、あるときから「街録」が楽しみで仕方なくなりました。それは、相手の人が「どんな人なのか知りたい」という意識に変わったからです。 いきなり聞きたいことを聞くのではなく、「お子さんかわいいですね。何歳ですか?」「お買い物帰りですか?重そうですが、どんなものを買われたんですか?」などとその人に関する雑談から始めるようにしたのです。すると、たいていの方はにこやかに答えてくれます。自分自身に興味をもって話を聞いてくれる人のことは、嫌いになれないんですね。 「これこれのニュースについてどう思うか聞いているんですけど......」と本題に入ると、「ごめんなさい。よくわからないので答えられないです」と断られることはもちろんありますが、落ち込むことはなくなりました。むしろ、いろいろな人の考えが聞けて、勉強になる仕事だなぁと思うようになったのです。 最初の「すみませ~ん」の声も明るく元気になって、立ち止まってもらいやすくなりました。「相手の視点に立ちたい」という意識をもてば、人見知りも乗り越えられるのだとわかりました。そのうえ、相手が積極的に話をしてくれるのですからいいことずくめです。