イスラエルのワクチン政策が株価の“先行指標”になる?
コロナ・ショックの打開策として期待が集まるワクチン。既に欧米を中心に接種が始まっている国があります。この中で、イスラエルは接種率が高い国です。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストは、新型コロナウイルスによって傷つけられた世界経済の今後は、イスラエルでのワクチン政策の事例が参考になるのではないかと指摘します。藤代氏に寄稿してもらいました。
接種率が群を抜いて高いイスラエル
2020年12月に欧米を中心にワクチン接種が始まりました。各国とも医療従事者や高齢者を優先的に順次拡大中です。ただし、現在のところ人口100人あたりの接種率は英国が7.0%、米国が3.7%、カナダが1.6%、ドイツが1.5%にとどまります(出典はOur World in Data、執筆時の最新データは1月18日時点 )。そうした中、ワクチン接種でトップを走るのは中東のイスラエルです。昨年12月19日に接種が開始され、年始時点で約100万人が接種し、直近は約270万人に達しています。100人あたりの接種率は30%超と群を抜いて高水準です。接種率は1日あたり1%に迫る勢いで上昇しています。 もっとも、現在のところ新規感染者数や死亡者数といった数値は減少しておらず、むしろ微増傾向にあります。新規感染者数の7日間平均値は8000人を超えており、それにやや遅行する死亡者の数は増加を続けています。ワクチン接種率が30%超に達しているにもかかわらず、感染者数、死亡者数といった重要指標(の絶対値)に大きな変化はみられないことは、感染の封じ込めが一筋縄ではいかないことを物語っています。
経済活動の正常化で経済政策が縮小する?
ただし、新規感染者数の伸び率に目を向けると、12月後半から低下傾向にあります。12月後半は、前週比の増加率が50%を超えていましたが、直近は1桁%にまで鈍化しています。このままのペースで鈍化すれば、間もなく、絶対数は減少傾向に転じることになります。感染学の専門家でない筆者は、ワクチン接種と感染者数の因果について考察・予想を避けますが、今後、欧米諸国や日本のワクチン接種率が上昇する過程では、イスラエルの事例が参考にされるでしょう。例えば、ワクチン接種率が〇〇%まで上昇すると、〇〇日経過後に新規感染者数が減少し、〇〇日後に経済活動の制限解除が可能になる、といった具合です。 では、イスラエルのコロナ感染状況が期待どおり好転した場合、株式市場では何が起きるでしょうか。素直に考えれば、世界の経済活動が「正常化」し、企業収益が改善することで、株価の上昇が期待されます。ただし、ここで注意したいのは同時に経済政策も「正常化」することです。2020年は異例の大規模金融緩和と大規模財政出動が株価上昇の原動力となりましたが、2021年はその逆で、経済政策が縮小することで株価に下落圧力が生じることも考えられます。今年は経済政策の微妙な変化が株価に大きな影響を与えそうです。コロナ感染状況と経済政策のバランスを特に注視する必要があります。
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