続く株価上昇 日銀のETF買い入れ政策は見直される?
折からの株高を受け、日本銀行がETF(上場株式投資信託)政策を見直し、買い入れ額を減額するのではないかとの見立てがあります。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【グラフ】コロナ不況なのになぜ空前の株高? 謎紐解く3つの要因
政策変更の発表は必要ない?
日経平均株価が約30年ぶりの高値を回復する中でも、日銀はETFの買い入れを続けています。買い入れペースは原則として年間約6兆円、昨年3月からは時限措置として約12兆円に拡大されています。もっとも、直近の株価上昇を受けて「その必要があるのだろうか?」との指摘も多くなってきました。そうした中で、日銀は3月に金融政策の「点検」結果を発表する予定です。それに併せて、一部の市場関係者は日銀がETF買入れ額の政策方針を減額方向に修正してくると予想しているようです。 一方、筆者はその可能性は低いと判断しています。減額を予想しない理由は「政策変更を発表しなくても減額できる」、この一言に尽きます。日銀の金融政策は年8回開催される「金融政策決定会合」で議論され、そこでの決定事項は「声明文」と呼ばれる文書に明記されるのが原則です。声明文に記載されている政策方針と実際の政策が異なることは通常、まずあり得ません。現在、日銀はETF買い入れ方針を「当面は、それぞれ年間約12兆円、に相当する残高増加ペースを上限に、積極的な買入れを行う」(筆者が一部省略)と明記しています。したがって、声明文に忠実なら、その通りに買い入れを実施する必要があり、政策変更(=声明文書き換え)がない限り、裁量の余地はありません。 ただし声明文には続きがあり、注釈が設けられています。そこには「市場の状況に応じて、(ETFの)買入れ額は上下に変動しうるものとする」(括弧書きは筆者)とあります。政策方針を示す文書としては何とも曖昧な表現ですが、そう明記されている以上、買い入れ額が上下に変動することは政策的に問題がないという訳です。
株価下落の危険を冒してまで……
実際、日銀はこの注釈の文言を活用し、2019年に買い入れを減額した経緯があります。19年の年間買い入れ額は4兆3772億円と買い入れ目標の6兆円を大幅に下回りました。この年は年間を通じて株価が堅調に推移したため、買い入れの必要性が低下したと判断したとみられます。こうした過去の事例を踏まえると、日銀は声明文に記載している「6兆円」や「12兆円」といった数値を変更することなく、買い入れ額を裁量的に変更することは可能であり、既にその実績もあるということです。 そうであれば、株価が下落する危険を冒してまでも、政策変更を発表する理由は乏しいと思われます。そもそも日銀は物価目標達成のための手段としてリスク性資産を購入しています。物価上昇率が低下している現状、株価上昇を受けて買い入れ方針を減額するのは理に適いません。日経平均株価は3万円の大台回復も視野に入る状況ですが、日銀の買い入れ方針は維持される可能性が高いと判断されます。
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