これが「モノづくりニッポン」の底力だ!還暦ライダー&技術者たちが挑む『世界最速のスーパーカブ』
消えゆくメイド・イン・ジャパンの象徴に最高の花道を
レース本番まで2カ月余り。今のところマシンの準備は順調に進んでいる。 あとは当日の天候次第。こればかりは神のみぞ知る、だ。まさに「人事を尽くして天命を待つ」心境である。 バート・マンローは70歳までボンネビルに挑戦した。近兼はどうだろう? すると苦笑して答えた。 「できれば彼の歳を超えたいですが…。マシンは年々進化しています。対照的に、僕の体は老化する一方。年々トレーニングを続けるのが苦痛になる。年々彼の偉大さを感じています」 身長168センチの近兼にとって、レースでのベスト体重は58キロ。毎日のジムでのトレーニングに加え、レース前は閉め切った部屋でストーブをガンガンたき、革のレーシングスーツを着て汗を流す。まるでプロボクサーの減量だ。 「ボンネビルの熱さはものすごいですから。コースから戻って革のレーシングスーツを脱ぐと、ものすごい量の汗が発散されて、虹が見えるんです」 それでも挑戦を続けるのには理由がある。 世界的なCO2削減の潮流の中で、日本が誇る小型高性能のオートバイも電動化が進んでいる。「原付き」と呼ばれ庶民に親しまれてきた50ccバイクは、排ガス規制をクリアできず、2025年に製造が終了する。 「消えゆく運命にあるメイド・イン・ジャパンの象徴に、最高の花道を飾ってもらうため、ライバルたちが絶対に破れない記録を作りたい。その後は、後進を育てたいですね」
【Profile】
天野 久樹(ニッポンドットコム) AMANO Hisaki ライター(ルポルタージュ、スポーツ、紀行など)、翻訳家。ニッポンドットコム編集部エディター。1961年秋田市生まれ。早稲田大学政治経済学部、イタリア国立ペルージャ外国人大学イタリア語・イタリア文化プロモーション学科卒業。毎日新聞で約20年間、スポーツ記者(大相撲・アマ野球・モータースポーツ担当)などを務める。著書に『浜松オートバイ物語』(郷土出版社/1993年)、訳書に『アイルトン・セナ 確信犯』(三栄書房/2015年)。