これが「モノづくりニッポン」の底力だ!還暦ライダー&技術者たちが挑む『世界最速のスーパーカブ』
当初、近兼は自分がマシンに乗るつもりはなかった。50代後半にもなって世界選手権で通用するほど、この世界は甘くない。だが、支援者たちから「自分の夢なんだから自分が乗らないと!」と背中を押されライダー役も引き受けた。まずは、半年をかけトレーニングと食事制限で現役時代の体力に戻すことからスタートした。 チャレンジは2年計画。1年目の2018年は、基礎データを集めることに専念し、リタイアのリスクが高い50ccでの参戦は避け、125ccでエントリーした。 最も工夫したのは空力性能の要、車体全体を覆うカウリングだ。参考にしたのは「船」。スピードボートやヨット、競技用カヌーの開発で蓄積された「流体抵抗」の知見を取り入れた。 そして、平均時速153.73キロ、瞬間最高時速165.30キロをマーク。連続完走25回という新記録を打ち立て、「世界最速のカブ」の称号を得る。 もちろん、それはあくまでも通過点に過ぎない。125ccマシンで得たデータと経験を積み上げ、それをベースに翌年、最小・最精密の50ccマシンを作り上げ、世界最速記録を更新するのだ。一息つく間もなく2年目の挑戦が始まった。
前代未聞のスケルトン型ボディ&過給機付き50ccエンジン
「このパッケージのままでは、50ccの世界記録は出ない」 それが初挑戦で得た結論であり、2つの大改革が必要だった。 1つはエンジン。空気が薄く気温が高いボンネビルでは、普通のエンジンではパワーダウンは避けられず、ターボやスーパーチャージャーといった過給機が不可欠だ。ところが、小排気量エンジンの過給機は、世界のどのメーカーも実用化に成功していない。キャブレターからインジェクション化も必要で、技術的に極めて難しい。某オートバイメーカーのベテランエンジニアからは「不可能」と失笑を買った。 この難題に取り組んだのは、エコラン(省エネレース)でギネス記録を持つ広島のFCデザイン。過給機で加圧された空気を冷やすインタークーラーも市販品はなく、東京都江戸川区の大和ラヂエーターの協力の下、試作を8度やり直した。