生きるために必要な知識を誰もが身につける生物教育とは
続いて千葉大学医学研究院教授の安西尚彦さんが、大学教育の現場から、さまざまな健康上の問題を知り生き抜くためのヘルスリテラシー育成の必要性を説いた。そして、生物を選択しない高校生も学ぶ「生物基礎」でヘルスリテラシーの基盤となる「ヒトの生物学」にも力を入れるべきだと主張した。
医師や薬剤師の8~9割が生物を選択せず大学に入学する現状にも触れ、生体の機能面を担う基礎医学分野に進む医師の減少を憂えた。同大学では、2020年より20年以上ぶりに1年生向けの「医系生物学」講義を再開したことにふれて、専門教育の基盤としての生物の重要性を訴えた。
正解のない問いを問い続けることが大切
パネルディスカッションでは片山さんがモデレーターを務め、参加者の質問に講演者たちが応じた。「大学に進学しない生徒もいる。社会生活で役に立つことも重要ではないか」との投げかけに、藤枝さんは「現行の学習指導要領にも社会との関連が明記されている」と国の基準でも大切にされている視点を説明した。
安西さんは「海外の学校で教える内容はヒトの生物学が中心」という参加者意見を引き、日本でも高校の履修内容に含めて実生活に役立つことへの注目を促した。園池さんは「重要で(履修内容に)含めるべきとはすぐ言えるが、代わりに何を切るかという難しいところまで考えないといけない」と指摘した。
佐野さんは探求の過程を授業に取り入れることに不安を感じる先生からの声に「低予算でも工夫次第でできる」、「優秀な生徒だけでなく、やってみたい気持ちから入ればどの生徒もできる」と答えた。「まずは経験が先、と生徒から教えてもらった」とも。指導する生徒が物理選択に流れることを憂える参加者コメントに、田中さんは「生物にしなさい、と言ったことはない」と本人や家族の意見を重んじた経験を述べた。
学校現場ではより良い授業を続けること、大学側も生物を必須科目とするなどの変化が必要といったコメントも。予定時間いっぱいまでさまざまな方向からの議論が交わされた。正解のない問いだが、問い続けることが大切だと再認識した。 当日は、「第6回 高校生 生きものの“つぶやき”フォトコンテスト」優秀賞の表彰式も行われた。「人間目線ではなく生き物目線」で捉えた写真作品とそれを生み出した生徒たちの前向きな姿に、問いの先にある希望も見えた。
佐々木弥生 / サイエンスポータル編集部