生きるために必要な知識を誰もが身につける生物教育とは
選択の自由度と得点のしやすさが改善のカギ
現在は京都府教育委員会に籍を置く田中秀二さんは生物を人気科目にしたいと言う。京都府立の高等学校・附属中学校において、生徒の意思を尊重し、魅力あふれる授業と体験の増加、教科書や大学入試の改善にも関わった長年の取り組みを披露した。例年30%前後の生徒が探究のテーマに生物分野を選び、日本生物学オリンピックへの参加者が増え、国際生物学オリンピックで優秀な成績を収める生徒もでるなどの効果もあったという。
しかし、大学入試センター試験・大学入学共通テストの生物の受験者数を指標としてみると全国平均と同程度。期待どおりの結果ではなかったと明かした。ただし、全国平均は理科1科目の選択を生物とする傾向がある国立文系受験者も含むため、理系志望の生徒集団としては生物選択が多い傾向は見られたと話した。
田中さんは卒業生にも追跡調査をした。「なぜ(生物でも良かったのに)物理を選択したのか」という問いには、「物理が得点しやすかった」との回答が60%にのぼった。「大学選択の幅が狭い」という声も一定数あることが分かり、生物選択者を増やすには選択の自由度と得点のしやすさの2つが改善のカギだと結論づけた。
共通テストの生物問題は探究的活動の参考に
生徒たちは進路選択や入試を意識しがちだが、勉強は受験のためにするものなのか。早稲田大学教授の園池公毅さんは、2021年に大学入試センター試験から衣替えして始まった大学入学共通テストに着目し、些末な知識の暗記ではない、思考力を問う問題に移り変わってきている状況を説明した。
2018年度の試行調査において、筋原繊維の顕微鏡写真と切断面の模式図との組み合わせを選ぶという、筋肉が動く仕組みの理解を測る設問の正答率が36.3%に留まったことを例示。百人一首で冒頭の1文字を覚えれば札が取れる「むすめふさほせ」のようにパターン認識で解ける問題の弊害を強調した。園池さんは大学入試制度改革の本当の目的は中等教育改革であり、大学入試共通テストの思考力を問う生物の問題は探究的活動の課題とされる適切な評価の参考になり得ると述べた。