宇宙が「数学的シミュレーション」だったとして、その計算は終わるのかを「チューリングの停止問題」から考えてみると
理系の「3ワカラン」と呼ばれる「ゲーデルの不完全性定理」。「正しいからといって、それが証明可能であるとは限らない」とは、どういうことなのか? この度、リニューアル刊行されたロングセラー『不完全性定理とはなにか 完全版』のなかから「不完全性定理」、そして異なる視点からゲーデルと同じ証明にたどり着いた「チューリングの計算停止問題」のエッセンスを紹介します。この記事では、話題となった「数学宇宙仮説」についてさらに「ゲーデルの不完全性」と「チューリングの計算停止問題」を手掛かりに考察していきます。 【写真】宇宙が「数学的シミュレーション」としたら、その計算は終わるのか? *本記事は『不完全性定理とはなにか 完全版』(ブルーバックス)を再編集したものです。 以前の記事では、ブライアン・グリーンの著書『隠れていた宇宙』に書かれていた考察から、「宇宙数学仮説」や「多宇宙」と「ゲーデルの不完全性」や「チューリングの計算停止問題」との関係について考えてみました。 このグリーンの考察に飽き足らなかった私は、この問題について、引き続きつらつらと夢想してみた。 ゲーデルの不完全性と物理学の関係は、やはり、チューリングの土俵で考えるほうがわかりやすい。 すると、問題は、「宇宙が計算シミュレーションであるとして、その計算は終わるのか?」ということになる。
宇宙の計算は停止するのか?永遠に終わらない宇宙
そもそも、仮に無限ループに陥っても問題はないかもしれない。たしかに計算のプロセスは延々とくりかえされるだろうが、刻々と変化する「途中の数字」をプリントすればいいではないか。 計算が完全に終わってから初めてプリントする、というのが変なのだ。計算の経過を見守るために、一般帰納的な計算プログラムのくりかえしの中に一言、「Print x」というような命令文を入れておけばいい。 もしかしたら、刻々と変化する変数xの値こそが、この宇宙の「進化」そのものかもしれないではないか! この観点からは、計算が停止するプログラムに相当する宇宙は、ようするに宇宙の終焉を迎えたことになるわけで、逆に、無限ループに陥ったプログラムに相当する宇宙は、永遠に終わらない宇宙、ということになる。 宇宙としては、どちらの可能性もアリだから困る。
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