孤高の料理人・林冬青、岡山に移住し食堂「ソワイ」をオープン
東京・広尾の伝説的名店、リストランテ「アッカ」で腕をふるったのち、岡山・牛窓に移住した林冬青(とうせい)。孤高の料理人と呼ばれた林が、地元の人たちの応援のもと、瀬戸内の島で小麦を育て、新しく食堂「ソワイ」をオープンした。 瀬戸内の島で小麦を育てる林冬青
「生地の材料は粉と生イースト、塩、水だけ。配合と焼き方で粉の持ち味を最大限に際立たせたい。最後、自分で育てた小麦を使うことで、納得のいく味になりました」
◆「ソワイ」の主役「そわパーネ」。具材は季節により変わる。コースは前菜とメイン約5皿、パーネ1~2種類、デザートで約10,000円(仕入れの状況により変動あり)。 夕日が瀬戸内の島々を染める頃、林が開いた食堂を訪れた。店の名は「sowai(ソワイ)」。瀬戸内の海の幸が満載の前菜や魚料理を楽しんだあと、主役の「そわパーネ」が登場。ピッツァ用の窯で焼き上げられ、アツアツが運ばれてきた。しっかり焦げ目がつき、薪の香りがふうわり漂う。外皮はカリッとクリスピー、中はもっちりふんわりしていながら、サクッと歯切れがいい。この独特の食感は、生地を平らにのばすのではなく、縦に積み上げることで生まれるそうだ。小麦のほのかな甘みと焼き上がりにのせたバターとからすみの風味が重なり合う。これだけでも贅沢なのに、中にベシャメルソースで和えたカニが入っていてごちそう感が増す。
◆前菜の盛り合わせ。茹でたエビやイカ、白身魚のカルパッチョなど。毎朝「高祖鮮魚店」にて仕入れる地元の海の幸が主役。 「生地の材料は粉と生イースト、塩、水だけ。配合と焼き方で粉の持ち味を最大限に際立たせたい。試行錯誤を繰り返し、最後は自分で育てた小麦を使うことで風味が加わり、納得のいく味になりました。やっと自信を持ってお披露目できるようになったのです」
◆オコゼはシンプルにキャベツと蒸して。 自家栽培の小麦は、精製した小麦粉とふすまに分け、生地作りのたびに混ぜる。「ふすまは入れすぎると重くて野暮ったくなるし、少ないと風味が生きてこない。このあんばいが難しいんです。軽さを出すためにイタリア産の小麦も使います」。コロナ禍で店を開けられない状況のとき、自分のやりたいことが“降ってきた”と林は言う。閉店は新しい挑戦のための前向きな決断であった。