アウディRS6もロックオン! ついに純内燃機ではなくなったBMW M5に、自動車評論家の渡辺敏史が試乗 その出来やいかに?
もはやM7と言いたくなるほどのスーパーサルーン!
BMWの中核、5シリーズをベースとするハイ・パフォーマンス・モデル、M5の国際試乗会が、ドイツ・ミュンヘンで開かれた。ついにパワートレインにモーターが加わった最新の“M”の走りははたしていかなるものだったのか。モータージャーナリストの渡辺敏史がリポートする。 【写真39枚】サルーンとツーリングを同時発売 内装、外装の写真を一挙公開 さすがの風格! ◆小さくはない革新が加わったパワートレイン BMWのモータースポーツを統括する子会社、BMW M社の前身となるM GmbHが初めて手掛けたゼロ・スタートのオリジナル・モデルがM1なら、量産モデルをベースとしたチューニングカー的な指向で作られた初のモデルがM5となる。つまり現在に続くMブランドのビジネスモデルのスタートラインが引かれたのは、1985年に発表されたE28ベースのそれだ。ちなみに搭載されるエンジンはM1用に作られたM88型の3.5リッター直6をベースとしたものだった。 その後のE34系からM5は途切れることなく代を重ね、このG90系で7世代目だ。搭載エンジンはE39系からV8にスイッチして以降、時系列的にはそちらの側がむしろ長い。21世紀のM5の歴史はすべてV8が基礎となっている。 新型では、そのパワートレインに小さくはない革新が加わった。ご多分に漏れず……という話かもしれないが、いわゆる電動化だ。18.6kWhの駆動用バッテリーを搭載したPHEVといえば、同門のMブランドでM1に次ぐオリジナル・モデルとなるXMのアウトラインとその内容を重ねる方もいるだろう。 その通りで、新しいM5のパワートレインはハードウェア的にはXMのそれを受け継いでいる。200Vの普通充電によって得られるEV走行距離はWLTCモード値で70km。最高速も140km/hまでをカバーしているとあらば、多くの人にとっては高速道路を挟んだ通勤や買い物などをカバーできる範疇となるだろうか。すなわち自宅に充電環境があれば、平日のM5は、M銘柄でありながら内燃機を稼働させることなく運用できるクルマということになる。 一方で、搭載するエンジンはS68型4.4リッターV8ツインスクロール・ツインターボだ。585ps/750Nmのアウトプットに件のモーターの197ps/280Nmのそれを合わせたシステム総合出力は727ps/1000Nmにも及ぶ。さらにモーター側はBMWが特許を持つプレギアリングによって一時的に450Nm、つまり5リッター級エンジン並みにトルクを増強させることも可能だ。新しいM5はツーリングも用意されるが、セダンの場合0- 100km/h加速は3.4秒、最高速は305km/hと、動力性能は史上最強だ。が、車重はXMほどではないが運転手込みで2.4tを超える。数値的にはMの称号が心配になるほど諸々が大袈裟なのは、いかにも今日的なハイパフォーマンス・カーの一面だろうか。 電気で走る限りはさすがに味気なくも、そこには社会性という付加価値がある。そういうPHEVの大義名分を無視しながら乗る新しいM5は、予想だにしないほどピュアなドライビング・マシーンと化していた。 爆発的な動力性能は数値的にも言うに及ばずだが、思いがけず……というべきは操作に対する応答の精度の高さだ。モーターとの協調からなる加速も、回生との協調からなる減速も、ドライバーが思い描く微細な加減がしっかり反映される。このリニアリティがドライバーの運転実感を高めてくれていることは想像に難くない。パワーも重量も途方もないクルマながら、運転すれば手の内に収まっているという自信が湧いてくるのは、ここに源があるのだろう。 マスがドサッと降り掛かってくるコーナリングでも、その動きに不自然さはない。アクセレレーターやブレーキの操作に対する荷重の移動、旋回時のGの高まりとロールの推移など、綺麗な所作をみせてくれる。一方で、前後の駆動配分によるスタビリティとハンドリングとのバランスをみるに、後軸に重きを置いたBMWらしい旋回感はしっかり継承されている。「らしい」ファンを味わえる領域は途方もない高みというわけではない。 件の重量や重心の低さ、変速の段付きの小ささといった電動車ならではの特性は、ライド・コンフォートにも大きく影響しているようだ。新しいM5は、もはやM7と称してもいいのではと思えるほどのスーパー・サルーンへと変貌を遂げた。そして久々に復活したツーリングの存在感は、アウディRS6にも大きな影響を与えることになりそうだ。 文=渡辺敏史 写真=BMW ■BMW M5 駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高 5095×1970×1510mm ホイールベース 3005mm トレッド(前/後) 1685/1660mm 車両重量 2400kg エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCターボ+交流同期電動機 排気量 4394cc 最高出力(モーター) 585ps/6000rpm(197ps/6000rpm) 最大トルク(モーター) 750Nm/1800-5400rpm(280Nm/1000-5000rpm) トランスミッション 8段AT サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+コイル (後) マルチリンク+コイル ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク タイヤ(前/後) 285/40R20/295/35ZR21 車両本体価格 1998万円 (ENGINE2025年1月号)
ENGINE編集部
【関連記事】
- BMW M5もついにハイブリッドで電動化 システム総合出力はシリーズ最強の727ps
- 打倒メルセデAMG E63 & アウディRS6 BMW M5ツーリングが727psのPHEV で14年ぶりに復活
- 史上最高スペックのワゴン、アウディRS6アバントGT上陸 世界限定660台で、日本は10台のみ
- 【詳細解説】自動車評論家の大谷達也が内燃エンジンのRS6アバントとBEVのSQ8スポーツバックe-tronに試乗して、アウディ・クワトロの走りを改めて分析した!
- 【詳細解説】320iセダンと420iクーペがドライバーズカーである理由を、自動車評論家の菰田潔が語る なぜBMWは運転が楽しいクルマの大定番なのか?