「私の実感に即して、楽しく尊重しあいながら仕事をする女性を書いてみたい」三浦しをんが新作『ゆびさきに魔法』で描いた“女性バディ”
洋服でも、好きな服と似合う服は違いますよね
――三浦さんのように、月島のまわりにも、大沢、星野、下村とすてきな友人・仲間がたくさんいます。学生時代の友人・下村に「私はあなたの丁寧で正確な施術が好き」と言われ、月島が「デザインセンスがないなら堅実さで勝負すればいい」と納得するシーンはじんわりと心に響きました。 三浦 結局、ないものねだりをしても誰も幸せにならないということだと思います。たとえば洋服でも、好きな服と似合う服は違いますよね。私は実は、フリフリのかわいらしい洋服も好きなのですが、それを着ている自分はまったく想像ができません。おそらくこの先も、フリルのたくさんついたかわいらしい服を着ることはないと思います。 小説も似ていて。私が「素晴らしい、これは天才の御業だ」と思う小説を自分自身でも書けるかといったら、正直書けません。でも、それと「自分の小説を書く」というのは別のことなのです。私は、私にしか書けない小説を精一杯書く。それしかないと、全力を尽くしています。 ――月島がアイデアで悩んでいたように、書くことがなくなるかもしれないという不安や恐怖は感じませんか? 三浦 ないですね。私の場合は、「書くことがない」のがデフォルトなので、「なくなるかも」という不安は逆にないんです(笑)。アイデアがどんどん湧いてくるというすごい方もいらっしゃって、そういう方はお話をしても本当に面白いので、いつもうらやましく思いますが、ないものを悩んでも嘆いても仕方がない。「自分はこういうものだから」と受け入れるしかありません。 本当に何も書けなくなったら? それはもう、なんとか頑張って別の仕事をいたします(笑)。
相澤洋美