「私の実感に即して、楽しく尊重しあいながら仕事をする女性を書いてみたい」三浦しをんが新作『ゆびさきに魔法』で描いた“女性バディ”
「仲良しの女性同士」というより、もっと恋愛に近い感情なのかも
――月島の専門学校時代の友人たちとの「ライバルでもあり仲間でもある」関係性にも、女性同士というより人間同士のつながりを強く感じました。 三浦 月島は、一緒にネイルサロンをやっていた星野江利の才能に憧れつつ嫉妬心もある。これは「仲良しの女性同士」というより、もっと恋愛に近い感情なのかもしれないと、書きながら思いました。 憧れの大切な人だけれど、独占はできなくて、側にいるだけで悔しい気持ちになる時もある――。こういう感情は性別に関係なく起こるものですよね。そんな相反する気持ちに、自分のなかでどう折り合いをつけていくかは難しいところでもありますが、月島の場合は、後輩である大沢を通して自分のなかで咀嚼し直し、新たな一歩を踏み出していく。そんな話にできたのではないかと思います。 ――主人公の月島は、未婚で子どもがいない30代半ばの女性です。ですが、月島の恋愛模様や結婚への思いが強調されることはありません。 三浦 私が20代の半ばくらいの頃は、まだ世の中の大半の人に「女性は結婚して出産するもの」という意識が根強くありました。だから、友人が次々に結婚して出産した時期には、「私と飲む時間がある人はいなそうだな」としょんぼりしたこともあります。 でも、結婚している・していないで、友達の関係が無くなるわけではないですよね。いま振り返って思うと、子どもに特に手がかかる期間って意外と短い。お子さんたちはあっという間に大きくなって、いまはまた「子どもが大きくなったから飲みに行こう」と一緒に出かけられる友人たちが増えました。 酔っ払っておしゃべりしている時に友人の娘さんから「また飲んでるの」とあきれられることもあります(笑)。手がかからなくなるまでの間はもちろん大変だったと思いますが、子どもたちが育っていく様子を時々私も横から覗かせてもらって、楽しませてもらったなと思っています。 ――月島が、結婚も出産もしていないことを「真剣に働いてたんだね」と専門学校時代の友人が評するシーンにも、三浦さんのニュートラルな視点を感じました。 三浦 そもそも、人がどう生きるかに正解も不正解もありませんよね。みんなそれぞれが一生懸命やってきたのならそれでいいし、そう思わせてくれる友人がまわりにたくさんいたのも、ありがたいと思っています。