邦人人質事件への日本政府の対応をどう見るか? 黒木英充、高橋和夫、萱野稔人らが議論(5)
非軍事と軍事の境界線
萱野:なるほど。中立だというのは、中立が大事だというのは私もそのとおりだと思うんですけども、一方で今の状況を見ると、日本は例えば平和的に非軍事的に関与しろという意見がある中で、軍事と非軍事の区別が付けにくくもなってると思うんですよ。例えば、欧米で人質になってる人たちを見るとほとんどの人が人道活動家ですよね。人道支援に行っても人質になって首を切られてしまう。要は人道支援自体が軍事行動と一緒でなければ、今やあそこら辺では立ちゆかないということでもあると思うんですね。 逆にあと、自衛隊の活動自体も、例えばサマワに派遣されたときの自衛隊というのはほとんど人道支援のようなことをやってわけで、そこも軍隊だから軍事行動を直接するというわけでは必ずしもなくて、そこでも非軍事的支援と、軍事的な組織や行動ということが線引きできなくなってきているところがあると思うんですよ。そういう中で日本は本当に非軍事的な方向だけで行きますっていうことが言えるのかどうかっていうことは、少し私はちょっと考えてしまうところがあるんですね。その点に関して高橋さん、どのようにお考えですか。 高橋:1つはサマワですけど、非軍事的で自衛隊だといってもアラビア語になってしまうと、自衛隊も軍隊もあんまり正確に区別はしてもらってないですし、もちろんサマワの周辺の人はよく分かってますけど、ファルージャでアメリカ軍と戦ってる人はそうは思わないですよね。だから、そこのところは難しいですよね。日本人が心の中で日本人は勝手に区別してるんですけど、中東の人にそう見えるかっていうのはまた別問題ですよね。だからやっぱり、問題、問題で、イシューごとの是々非々じゃないかなと思うんですよね。例えば、ソマリア沖で今自衛艦が海賊対策に当たってますよね。それによって各国の商船は安全になるわけですから、それに文句を言う人はあんまりいない。ただ、実際にじゃあ、またイラクにしろ、シリアにしろ、自衛隊が行くということになれば、たぶんまったく感覚は違ってくると思うんですね。ですから、一概に自衛隊が出ていくこと、これだから駄目、あれだから絶対駄目という問題ではなくて、イシューだと思うんですね。 萱野:日本が例えば非軍事的な関与を強める。今、有志連合の中には日本も一応、入ってるわけですね。その中で非軍事的な協力だけをするといっても、結局、全体が軍事行動も含めて有志連合になってるということを考えると、非軍事的に有志連合に関わるっていうこと自体が、日本人が思ってるように非軍事的だっていうふうな形で区別されないんじゃないかなっていう気もするんですけど、 高橋:いや、おっしゃるとおりで、だから、イスラム国側が区別はしてないですよね。だから、今回安倍さんの、安倍総理の発言で問題になってるのは、人質が取られているにもかかわらず、あれだけ威勢のいいことを言うのが政治的に賢明であったかという判断であって、難民支援に対して批判というのは私はないと思うんですよね。 黒木:それは難民支援だと言えばいいわけですね。本当に苦しんでる人たちを助けるんだと。だから、それはもう本当に自分が何かものを言ったときにどう解釈されるかっていうことですよね。日常生活でもわれわれありますよね。こういうことを言ったけども、そういうつもりはなかったけど、こう解釈されてしまうっていうことですよね。で、それはもう常に考えないといけないわけですよ、ああいう立場の人は。 萱野:なるほど。非軍事と軍事の境界線がなくなる中で、今後も非軍事的な関与をやっぱり貫くべきなんだということでしょうか、今のお話というのは。貫き続けることができるんでしょうか。 高橋:うん。これまでやってきて、これからできない理由はないなと私なんかは思うんですけど、少なくとも私が中東を旅行してて、いろいろ問題はあるんですけど、少なくとも日本の兵器で死んだ中東の人は1人もいないというのはね、ほっとしますよ。やっぱり、日本人がカラシニコフよりいい兵器を作って、やはり日本製の兵器はよく当たって、たくさん敵を殺しましたと言われるよりは。うーん。 萱野:なるほど。日本車はたくさん走ってますけどね、戦場で。性能がいいんでしょうね、それは。なるほど。はい。 春香クリスティーン:はい。時間もあとわずかになりましたけど。 ---------------------- ※書き起こしは、次回(6)に続きます。