図を用いた発想で、算数から確率・統計、そして経済学の数学までを見渡してみると【なぜ図を描くのか?】
数学ってどこでわからなくなったんだろう……微分積分?三角関数? 積極的に提言する数学教育の専門家として知られる数学者の芳沢光雄さんは、そのつまずきは、そもそもの算数に始まっているのではないかと指摘します。単なる計算問題や公式の暗記ではなく、「数学への土台となる考え方」を身に着けることが大切なのです。今回は「図を描く」というテーマで、算数から確率・統計そして経済学でも応用される数学を紹介します。 【図版】図を用いた発想で、算数から確率・統計、経済学までを見渡してみると!
なぜ、図を描くのか?
「図やグラフを用いて考えると……」という視覚的に考える言葉は、よく見聞きする。本稿では拙著『昔は解けたのに……大人のための算数力講義』にある4つの題材をはじめの例として、図を用いた発想を4つに分類し、それぞれが中学数学、高校数学、大学数学、そして応用面でどのように発展していくかを考えよう。
(ア) 図を描くことによって、ミスの無い思考をする。
下の図1は、AからFまでの6地点ある図に路線図を描き込んだものである。このとき、出発地Aから致着地Fに至るルートは何本あるかを考えてみよう。ただし、同じ地点は2度通らないものとする。 このような問題を考えるとき、よく図の線上に何度も鉛筆でなぞる人もいるが、見難くなって後で見直しすることが難しくなってしまう。 そこで、下の図2のように樹形図を描いて数えると、答えは10本であることが分かるばはりでなく、見直しが簡単になる。このように樹形図の発想は、いろいろな場合に分けて考えるとき、ミスを防ぐ効果がある。 中学や高校で順列・組合せ・確率を学ぶ。7人の中から責任者、会計係、書記の3人を決めるとき、全部で何通りあるかを考えよう。責任者として7通りがあり、責任者を1人決めると会計係は6通りあり、責任者と会計係をそれぞれ1人決めると書記は5通りある。この状況を樹形図で表わすと、全部で 7×6×5=210(通り) という式が簡単に導かれることになる。
この発想をビジネスに応用してみよう
また、A、B、Cの3人一緒にじゃんけんを1回行うとき、あいこになる確率を考えてみよう。最初にすべての場合が何通りあるかを考えるが、このときも樹形図を描いてみる。Aの手は3通り、それぞれに対してBの手も3通り、AとBの手を決めるとCの手も3通り。そこで、全部の場合は 3×3×3=27(通り) となる。そして、それら27通りの中からあいこになるのは、3人とも異なる手であるか、3人とも同じ手となるので、あいこになるのは合計で9通りとなる。そこで、求める確率は9を27で割って、1/3となる。 ビジネスへの応用面に目を向けると、目的地までいろいろなルートがあるとき、どのように行けば最短時間でいくか、あるいは最小コストで行くか、などを求める最短通路問題。 多くの作業工程があるプロジェクトにおいて、各工程は何日目にスタートできるか、各工程は何日目までにスタートしなければ遅れないのか、あるいは全体の作業をなるべく早く終わらせるためには、どの部分の工程の短縮を検討すればよいか、などを検討するPERT法。 それらは樹形図の発想から派生させたものといえるだろう(拙著『ビジネス数学入門第2版』参照)。