欧州難民問題で注目の2つの制度 EUの「一つの共同体」理念揺らぐ
欧州で社会問題化しているシリアなど中東からの難民問題。この問題をきっかけに、ある2つの制度が欧州でクローズアップされています。「シェンゲン協定」と「ダブリン規制」です。日本ではあまり知られていませんが、それぞれ国境移動の自由や難民の扱いを定めたものです。協定の見直しを求める声も出始める中、「一つの欧州」という理念も揺らいでいます。 【写真】ロシア参戦で難民はさらに増える シリアは「地獄」化の恐れ
見直しの声が高まる「シェンゲン協定」
シリア内戦の悪化が原因で、欧州は第二次世界大戦以降で最大の難民問題に直面しています。EUが誕生した際、「一つの共同体」としての欧州には多くの期待が集まりました。EUの圏内ならば基本的に出入国調査なしに自由に国境を越えて移動ができる制度も、新しいヨーロッパの象徴として賞賛されてきました。出入国調査を受けずに国境を越えて、ヨーロッパの中を自由に移動できるシステム。これは「シェンゲン協定」と呼ばれていますが、もともとは冷戦終結前の1985年に西ドイツとベルギー、フランス、ルクセンブルグ、オランダの5か国によって作られたルールでした。 現在、シェンゲン協定はほとんどのEU加盟国とスイスで締結されており、その数は26か国に及びます。26か国で構成されるシェンゲン圏には、来年新たに4か国(クロアチア、ルーマニア、キプロス、ブルガリア)が加盟する見通しですが、シリアなどから大量の難民がヨーロッパに押し寄せてきたことが原因で、シェンゲン協定の見直しを求める声が日に日に高まっています。 ハンガリーとセルビアが国境を封鎖したため、中東・アフリカ方面からの移民が大挙して押し寄せるようになったクロアチア。ザグレブ在住のジャーナリストでクロアチア国内の難民問題をレポートするバルバラ・マテイチッチさんは、シェンゲン協定が事実上破たんしている現状を危惧しています。大量の難民流入はシェンゲン圏でも国境封鎖を引き起こしました。 「クロアチアは24年前に戦争を経験しているため、国内メディアは難民問題を人道的な問題として連日伝えています。難民問題に関しては、すべてのヨーロッパ諸国に受け入れや支援の義務があり、ヨーロッパ以外の国でも、シリアの内戦に経済的・政治的理由から何らかの形で関与した国々に何らかの責任が存在するのではないでしょうか。各国の思惑は様々で、シェンゲン協定の事実的な破たんが示すように、ヨーロッパが一枚岩となって難民問題に取り組むことは困難です」