森林出現が環境を破壊?デボン紀生物大絶滅―「最古の木」の化石探求(下)
デボン紀の森林を示す二つの証拠
太古の森林を探求するとき、その証拠は広い地域にたくさん見つかる幹や枝葉などの「木の化石記録」はもちろん重要な情報源だ。だが、他の二つのタイプのデータも、鍵となるヒントを与えてくれることがある。 まず、第一のヒントとは当時の地中に埋もれたまま隠れているようだ。たくさん集まって生息していた樹木は、大地に深くしっかりと根を張りめぐらす。こうした「根の痕」が地層の中にみられることがあるのだ。 森林の中にはたっぷりと腐葉土を含んだ「土壌(soils)」 ── 多くの生物にとっての栄養分を提供する環境だ ── さえ生産する。(畑でスイカやキュウリなどを育てる時、この土壌は欠かせない。)こうした特長も「太古土壌(paleosols)」として、よく地層の中で確認できる。 地球史において、発達した土壌環境は、樹木がデボン紀中期終盤から後期にかけて出現するまで、地質・地層記録において見つからない。最古の土壌記録として、デボン紀中期の南極大陸の地層から報告されているが(Retallack 1997)、デボン紀後期において世界各地に見られはじめた。 ―Retallack, G. J. (1997). "Early Forest Soils and Their Role in Devonian Global Change." Science 276(5312): 583-585. こうした跡は、地層の中において観察することもできる。岩石の成分や顕微鏡レベルで砂岩などの粒を詳しく調べると、「森林の証拠」としての土壌の跡も観察できる。 丸々と肥えたミミズたちは、もしかするとデボン紀後期にはじめて現れたのかもしれない。そして、(後述するが)地球の大地のはじめて、それも大量に生産された土壌は、植物たち自身にとってはプラスだったが、グローバルな規模で環境汚染を起こし、その他の生物に甚大な被害を与えた可能性が高い。 第二のデボン紀森林の証拠として、「太古の火事の痕」がある。もちろん古生代の昔、タバコをポイ捨てする「不謹慎な人間」という動物は、まだ存在していなかったはずだ。(注:これを書いている最中、ロサンジェルス近郊の大火事のニュースを連日のように目にしている。)しかし火山の噴火や雷、隕石の衝突などが原因で焼かれた樹木の「木炭のくず」(=fossil charcoals)は、化石記録・地質記録において、(時に)非常によく見つかる。 このような木炭のくずは、基本的に顕微鏡で観察することができるほどのサイズで非常に小さい。真っ黒な石炭のくずと色が似ていてまぎらわしいが、両者は基本的に別のものだ。顕微鏡で鉱物などを観察するときに使う、専用の光加減を調節する用具をもちいると、両者を識別できる。(注:この研究に携わる博士課程の学生を一人、現在、私はアラバマ大学で手伝っている。化学成分の分析で太古の火事の跡が分かるケースもあるそうだ。)このような火事によってできた木炭のくずは、肉眼でほとんどわからないものの、地層によってはかなりたくさん見つかることがあるという。 ―木炭の化石の例: 太古の火事記録によると、最古のものはシルル紀末からデボン紀前期ごろに起きたとされる(陸上植物が最初に現れた時期だ)。しかし、デボン紀後期に入ると、木炭のくずや半焼けになった木の化石などは、はっきり増加傾向を示すという(Rimmer等2015)。 ―Rimmer, S. M., S. J. Hawkins, et al. (2015). "The rise of fire: Fossil charcoal in late Devonian marine shales as an indicator of expanding terrestrial ecosystems, fire, and atmospheric change." American Journal of Science 315(8): 713-733. さて、ここまでのストーリーの流れを要約すると、どうも樹木はその出現当初から、すでに集合体として進化する道を選んでいたのかもしれない。(その際、どのような利点があるかは、いろいろな説があるはずだが、スペースの都合上、ここでは割愛する。)その登場時、地球の広大な陸地(特に内陸)には、競争相手がまるでなかったのかもしれない。 樹木は、チンギス・カンやアレクサンダー大王の如く、広大な地域に分布するという運命(さだめ)が、その登場時から後の進化の道筋として、色濃く刻まれていたのかもしれない。